「…もう、さよならか。」
綺麗になった自身の部屋を見て、すっきりしたような、切ないような気持ちがこみ上げてくる。
デジタルワールドにいるパートナーに怒られるかもしれない。
なんで言わなかったの!と。
そして、太一のこと嫌いになったの?と続くんだろう。
太一のことが嫌いになったわけじゃない。
でも、これ以上、一緒にいて悲しい想いをして、いつか嫌いになるくらいなら…
と、純は家を出た。
荷物をまとめ始めても、最後まで太一に気付かれることはなかった。
それは太一が純に興味がないことを示しているようで、純は悲しくなった。
鍵を郵便受けに入れると、カチャン、と金属音が耳に届いた。
これでこの家ともお別れ。
「ばいばい。」
二人で過ごした家にも、たくさんの思い出にも、そして太一にも、ばいばい。
ほとんどの荷物は郵送しておいたため、純の手持ちの荷物の量は普段となにも変わらない。
買い物でもしてから実家に向かおうか。
そう決めた時、純の目の前に見覚えのある姿が見えた。
見間違えるはずがない。
それは間違いなく、久しぶりに見た太一本人で。
純は慌てて、身を隠そうとするが、ここは歩道で近くにお店なんてない。
更に人通りも少なく、純が純であることはバレているだろう。
太一は猛スピードで純の目の前まで来た。
「…どういうことだよ。」
「なにが…」
「家、出てくって…」
誰から聞いたのか、なんてそんなの簡単で。
純がそのことを伝えたのは幼馴染であり、親友である彼女だけ。
しばらくしてから、連絡すればよかった、と少し後悔した。
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bkm