※年齢操作


「俺は、神様なんかじゃない」

その言葉を乗せた声はひどく弱々しくて、けれどそれが耳の奥に張り付いていたあの頃の声を剥ぎ取っていくような気にさえさせた。眉尻を下げて笑うその顔、あんな顔なんてヒロトの記憶にはなかったはずなのだ。何時だってきらきらと目を焦がすほど眩しかったから、焼き付いたあの彼の姿が霞んでしまうことはもうないのだと思っていた。それなのに、あんなにも鮮やかに彩色されていた記憶を映すフィルムが、じわりじわり、浸食されるように色を忘れていく。

「でも、俺にとっては」
「それは勘違いなんだって」
「そんなの」

咄嗟に唇が漏らしたヒロトの声は悲鳴にとてもよく似ている。いやだよ、いやだ。頭の中で繰り返される言葉は今のヒロトのそれにも似ているようで、でも少しばかり高い音で出来ていた。まるで少年が出す声のような高さだった。

「もしかしたら……もしかしたらに過ぎないけど、あの頃の俺はお前の言う神様に近かったのかもしれない。でもヒロト、違うんだよ」

彼は笑った。目を細めて、口角を上げて。彼は笑っていない。眉を下げて、握った手を震わせて。器用に笑顔そっくりな形を作っているだけだとヒロトはすぐに分かった。ヒロトの知っている彼はそんな表情が出来るほど器用ではない。あの顔は昔、ヒロト自身が得意としていたものだ。

「今の俺は神様じゃない、神様になんてなれない。一人の人間だ。弱い、一人の、人間でしかないんだ」

もうヒロトの口が開くことはなかった。今のヒロトの感情を象れるような言葉がなかったからだ。言葉になれなかった沢山の思いたちはけれどヒロトの心には多過ぎて、とうとうそこから溢れ出てしまった。唇から外へ出られなかったそれらはヒロトの瞳から生まれ落ちていった。頬をすべったうつくしい雫はまるで流れ星のようだった。

「ごめんな、ヒロト」

自分の知っている円堂はもうどこにもいないとそうして、分かってしまったのだ。


君がきれいだと言ったあの星ならついさっき死んだところさ

110516 00:23



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -