「学校の先生?」
「はい、私決めたんです!」

すぐ傍に転がっている現状の処理だけで二本しかない僕の腕は埋まってしまうから、どこに何が在るのかさっぱり分からないその先までは頭も手も回せはしない。将来の夢だなんて勝手な理想ばかり描いても、やがて現実となったその重さに苦しむのは結局それを投げ付けられた未来の自分だった。だからそんなもの、どうにか考えないようにと思っていたんだろう。

「今から一生懸命勉強して、勿論お兄ちゃんにも教えてもらいながら、そうして先生になってサッカー部の顧問になるんです!」
「そして幼気な生徒たちと禁断の恋に落ちて『先生が手取り足取り教えてア・ゲ・ル』? わー先生いやらしいー」
「そんなことしませんよ!」

きっと彼女が望む未来図は鮮やかで、そこに居るのは必ず笑顔の彼女自身。そして大好きなサッカーもその画面の大切な要素の一部。幸せな、いつかの未来。

「しっかし音無さんが先生とはねー……」
「何ですかその言い方! どうせ私には似合わないですよー」
「……いや」

教師という職業は確かに到達点で、そこに至るまでにあるいくつもの苦難を乗り越えなければ辿り着けない。けれども本当は通過点でしかなくて、その職に就いてからが本当の苦難なのだ。そして更なる到達点は曖昧に霞んで見えやしない。その中をもがくことこそが本当の将来。そこを描くことを僕たちは無意識の内に避けて、綺麗な未来図だけを思い描くのだろうけど。

「いい先生になれると、僕は思うよ」

単純な言葉だけで馬鹿みたいにきらきらし始めるその顔と性格は、恐らく彼女が大人になっても変わることはない。教師になって本当の苦しさを知ってからも、そんなものもこの明るさの前ではくすんでしまうのだろうから。けれどそれもやはり僕が勝手に思い描く予想に過ぎなくて、その予想が外れたかどうかを確かめられるかどうか、そんなものも僕には全く、未来なんて分かりはしないのだ。


そうやって笑う大人びた君の隣にいる誰かの名前を僕は知りません

110508 14:57



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