吾輩は蛇である

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 吾輩は蛇である。名前はまだ無い。と言いたいところだがそれは嘘である。多くの人間は私の名を知らないだろうが、人間ではあるものの吾輩に近い瞳をした主人は吾輩をナギニと呼ぶ。
 どこで生まれたのかとんと見当はつかぬ。と言いたいところだがそれも嘘である。主人によれば吾輩の暮らしていた森はアルバニアというところにあったのだという。だが現在は英国に居住している。主人の都合でこちらに移ってきたのである。主人は吾輩が初めて出逢った人間というか魔法使いである。主人は魔法使いの中でも最も獰悪な闇の魔法使いという種族なのでそうである。しかも闇の魔法使いは時々人を捕まえて煮て食らおうとするそうである。しかし吾輩はその時餌を食らうのと同列の行為と思っていたので別段怖いなどとは思わなかった。ただ御主人の冷たい手ですうっと撫でられると何だかフハフハした感じがあったばかりである。地面からじっと見つめると、主人の声が我々の言葉で響いてきた。それで吾輩は主従の絆を結び、主人の首にするすると登ってぐるぐると巻きついたのである。以来、主人の首は吾輩の居場所となった。
 しかし、最近それを邪魔する人間の女、これもやはり闇の魔法使いという種族なのだが、そやつが現れて主人の首に絡みつくのである。吾輩は女を殺してはならないと戒められているのでただシャーシャーと威嚇するばかりである。手出しを出来ないことを知っていて女は得意げに吾輩に向かって微笑む。噛みつき引き裂いて食らうてやりたいが、その代わりに吾輩はある日主人のいないところで女の足に絡みつき奴を転ばせた。起き上がろうとした女を、吾輩は嬉々として何度も何度も転ばす。すると女は吾輩をむんずと掴み、あろうことかぐるりと吾輩を紐か何かのように結んだ。そして鼻歌を歌いながら去って行った。糞、あの女畜生道に落ちるがいい。帰ってきた主人が吾輩の醜態を発見し凌辱された我が身を解き放つまで、数時間もそのままの格好で放置された。主人は自由の身となった吾輩に憐憫と愛情の抱擁を与えたが、吾輩のこの恨みは消えない。
 そう、吾輩は蛇である。執念深く狡猾な蛇である。女め、次はどうしてくれようか。

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