The Explosion
 地下牢、「魔法薬学」の教室があるこの場所はいつの季節も薄ら寒い。ビル・ウィーズリーはまったく嫌な場所だとカッカしながら「魔法薬学」の教室から出てきたところだった。
 ──あのスネイプの嫌み野郎!
 ビルは今年度最後のレポートを完璧に書き上げたつもりだった。いや、つもりではなく、第三者から見てもまったく不備のないものに仕上げたのだ。だから当然、「O」がついてしかるべきだった。しかし、スネイプから返ってきたレポートは「A」だった。「O」でも「E」でもなく「A」!授業後、ビルは食ってかかった。午後の最後の授業だったため、議論は一時間にも及び、最後には「しつこい」という理由だけで減点を喰らって追い出されたのだった。
 本当、信じられるか!僕は見たんだ!なんであのスリザリンのウスノロ馬鹿が「O」で僕が「A」なんだ!?しかも減点までされるなんて!だいたい──
 バーン!
 いきなり爆発音がとどろいた。一瞬、ビルは自分の怒りが爆発したのかと錯覚したが、そうでないことはすぐわかった。すぐに通り過ぎたばかりの教室から「ウギャア!」という蛙の潰れたような声が聞こえた。ビルは慌てて駆け出した。
 扉の隙間からは灰色の煙がモクモクと漏れ出していた。慌てて扉を開けると、さらに濃い色の煙で何も見えない。
「大丈夫か!誰かいるのか!?」
 返事の代わりにゴホゴホ咳き込む音がした。ハンカチを口に当て、ビルは杖を取り出し、煙の中に紛れた。
 闇雲に教室を突っ切ると、おぼろげに黒いローブらしきものが見えた。とりあえず教室の外に出さないと──ビルはゴホゴホ言ってる人間の腕を引っ張り、一目散に出口に向かった。
「わ……ゴホッ!いでっ!ちょ、待っ……いたっ!ゲホッ!」
 どうやら引っ張り出した人物は反射神経がよろしくないようで、散乱した机や椅子にボコボコぶつかっていた。ビルはかまわず廊下に相手を投げ出した。
「うわっ!ゲホッ!ゲホゲホ……」
 その人物はズベッと滑ってしりもちをついた。かまわずビルは扉をきっちり閉め、これ以上煙が廊下に漏れないようにした。
 この派手さ加減では、すぐにフィルチかスネイプが飛んでくるだろう。ビルはため息をつき、どうか助けた生徒がグリフィンドールではありませんようにと祈ってから振り返った。
「アー……またやっちゃった……ゲホッ」
 いかにも実験後と思しき髪の毛、パーシーのような厳つい眼鏡(しかもヒビ入りだ)、大部分溶けてベトベトした液体が貼り付いたローブ、何とも個性的な格好の生徒は、首にレイブンクローのネクタイを巻いていた。しかも──ビルはギョッとした。すぐさま自分のローブを脱ぎ、相手に羽織らせた。
「これ、着て」
「えー?」
「いいから!」
 助け出した生徒は女の子だった。しかも、服まで所々溶けていたのに、まったく気づいていない女の子だ。
 女の子は何とかローブを被った。ビルは色々な意味で驚かされて、何だかぐったりきていた。
「君……えーと」
「名はシェリー。姓はロレンス。好物は魔法薬」
 歌うように自己紹介すると、シェリーはニカッと笑った。何本もヒビの入った眼鏡のせいで、まったく瞳が見えなかったが。
 そういえば──ビルは友人の話を思い出した。レイブンクローに、ちょっと変わった女の子がいるとか言っていたな。確か……
「へえ、君が噂のマッド・サイエンティストか」
「お褒めにあずかり結構結構」
 髪の毛をクルクル弄びながらシェリーは言った。どことなく楽しそうな声だった。
「えーっと……そんで、君誰?お礼言いたいんだけど、何事も名を知らねば始まりませぬ」
 本当に変わった子だな。ビルは苦笑しながらシェリーに名を告げた。
「僕はビル。ビル・ウィーズリー」
「ウェーザビーくん、ありがとー」
「ウィーズリー、なんだけど」
 その前に、その眼鏡で見えるのだろうか。疑問に思ったビルは、屈んでシェリーの眼鏡をサッと外した。 
「ビルでいいよ──オキュラス・レパロ!」
 ビルはあっという間に眼鏡を直した。うん、我ながらまずまずだ──ビルはシェリーに眼鏡を返そうとして──また驚いた。
 眼鏡を外したシェリーは、目がぱっちりしていて、なかなか可愛い顔をしていた。しかも、直した眼鏡を見て目をキラキラさせている。ただ、顔は煤けて真っ黒だったが。それでもあまりにも予想外だったため、ビルはポカンとした表情で固まった。
「うわー!すごいね、新品みたいだあ。なかなかやりますねぇ、旦那!ね、ね、後でこの呪文教えてくんない?私、すぐやっちゃうんだよねー。さっきみたいなの」
 ビルが硬直しているのも気にせず、シェリーはビルのシャツを握って子どものように駄々をこねた。
「ねえ、教えて!いいでしょ?ねえ、ベンー」
「……うん、もちろんいいけど──」
 ビルは何とか正気を取り戻して、確信犯的な笑顔を見せた。
「条件がある」
「何ー?たいしたことはできませぬー」
 首を傾げるシェリーに、ビルは眼鏡をかけさせながら言った。
「僕をビルってきちんと覚えることと、僕と友達になること。オーケー?」
 バタバタと遠くの方から足音が聞こえてきた。多分、フィルチだろう──それでもビルはげんなりしたりはしなかった。シェリーは目をぱちくりさせ、それからニカッと笑った。
「オッケ、よろしく、ビル」
 スネイプの「何事だ」という怒声も、今のビルにはあまり腹立たしく聞こえなかった。






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