16.授業中

 天文学の授業は、夜に行われることが多い。実際に星空を見ながら授業をする方が覚えがいいからだろう。僕はジェームズとシリウス、それにピーターの四人とグループになって座り、月のない空を眺めながら天文学の先生――彼女が神話について語るのを聞いていた。
 彼女の声は、涼やかで夜空によく響く。何やら次の悪だくみを小声で話し合っているジェームズとシリウス、退屈そうなピーターを無視して、僕は彼女の紡ぐ物語に聞き入る。月がないからか、安心して彼女の声を聞いていられる。
 怪力を振るう英雄や、魚になって怪物から逃げた神々の話。それはとても耳触りのいいストーリーだったが、僕が本当にその唇から聞きだしたいのは、そんなことじゃない。どんな紅茶が好きかとか、どんな風に笑うのかとか、そんな些細なことが知りたい。あなたについての、小さな全てが。
 重症だ、とひとり笑う。
 男として見てくれる可能性なんて、神話の英雄が試練に打ち勝つ可能性よりも低いのに。星空の下で仕事をする彼女から目が離せない。
 授業中だぞ、リーマス・ルーピン。
 そう自分を窘めても、この病は治らない。不思議な熱い気持ちが、胸の中を満たしていく。
 でも、ひとりの生徒としてその声を味わう権利はあるだろう。一言一句を聞き洩らさないように、じっと彼女の口元を見つめる。
 ――そう、今は授業中なんだから。先生に集中するのは、当然のことだろう?




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