14.傍にいて欲しい

 今日もまた、医務室のベッドに横たわる少年。大きな爪でえぐられた胸や首の傷は、まだ痛々しく血を流していた。
「……先生?」
 声をかけられ、我に返る。少年はうっすらと瞳を開けていた。
「どうして、先生が……」
「マダムもマクゴナガル先生も、用事があるそうです。……私では、心もとないですか?」
「そ、んなこと……くっ」
 痛みに呻く彼の手を取る。本当は、自分から進んで医務室の留守を預かることを申し出たのだった。どうしても、月が満ちる頃になると、彼のことが気にかかるのだ。
「動いてはいけません。傷口が開きます」
 私ができるのは、彼の手を握ることだけ。それがもどかしかった。癒者なら、彼の痛みを取ってあげられるのに。
「すみません」
「……どうして、先生が、謝るんですか」
 ぽつりと零れた言葉に、少年は問いかけた。
「教師なのに、私はあなたに何もしてあげられない」
「じゃあ」
 重ねた手を、少年が強く握り返す。 
「……そばにいて、ください。それだけで、いいです」
「本当に、それだけしかできませんが」
 それでいいのですか?尋ねると、少年は微笑んだ。
「ありがとう、先生」
 さらに何か少年は小声で言ったが、聞きとることはできなかった。私はただ、本当にその場にいることだけしかできなかったが――眠りについた彼の表情は、何処か柔らかいものになっていた。




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