3.月の光

 アールグレイの紅茶を入れると、殺風景な部屋に爽やかな香りが広がった。カップを持ったままテラスに出、眼下に広がる森を眺める。かなり高度は高く、風も強い。しかし素晴らしい景観だ。最上階に近い部屋を与えられているのは受け持つ科目が天文学だからだが、それでもダンブルドアに感謝せずにいられない眺めだった。
 見上げると、手の届きそうなところに丸い月がある。
 今宵は満月。魔力に満ち、血が騒ぐ夜――。
 脳裏に一人の少年が浮かんだ。狼人間になってしまった、魔法使いの少年。彼は今、「叫びの屋敷」でその名の通り、咆哮を上げている。己に爪を立て、血を流し、本能に翻弄されている。
 何と、哀れか。
 カップに注いだ紅茶に、望月が映る。私はそれを飲み干した。月の魔力が少しでも弱まるように。効果がほとんどないのはわかっていたが、それでも私は少年を思った。少年の心を思った。月が隠れるように、その光が遮られるように、願った。
 ふと、正気に返り、疑問を浮かべる。何故こんなにもあの少年のことを考えてしまうのだろう。ただの教師と生徒、それ以外の何ものでもないのに。
 ――月の光のせいだ。
 天文学の授業はそのほとんどを星や月の明かりの元で行う。だからホグワーツ中で一番月の光を浴びているのは私だ。月の光の恩恵を受ける者だからこそ、その害を被る少年に、罪悪感を感じているのかもしれない。
 願わくば、その恩恵を彼が受ける日が来たらんことを。
 有り得ないことと知りつつ、私は月の光を吸い込んだ。





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