2.戸惑い

ノックを二回、繰り返す。それでも応答はない。迷った挙句、リーマスはドアノブを回してみた。何の抵抗もなく開いた扉の奥には、人の気配がした。
「先生?レポートを持ってきたんですけど――」
 ドアを閉め、大量の羊皮紙を落とさないように前を向く。そこでリーマスは息を呑んだ。
 しなやかな足を力なく伸ばし、頬杖をついたまま、探していた人物は止まっていた。長い髪を優雅に流し、静かに寝息を立てている。閉ざされた瞼は長いまつ毛に縁取られ、時折微かに動く唇は桜桃の色をしていた。
 今まで感じたことのないような動悸がリーマスを襲った。落としかけた羊皮紙を何とか腕の中に収め、恐る恐る近づいていく。覗き込んだその顔は、不思議な引力を持っていた。
 綺麗な人だ、と入学当初から思っていた。けれど、ここまで胸を騒がせるのは――。
 自分が何をしたいのか、リーマスはわかっていなかった。
 思わず伸ばした人差し指が、勝手にその柔らかな唇に触れていた。そっとその輪郭をなぞる。零れた吐息に、背中と脳髄が痺れる。
「ううん……」
 我に返り、リーマスは己の手を引っ込めた。どうしようもない頬の火照りに、罪悪感が込み上げてくる。慌ててレポートを机に置き、部屋を辞した。
 何をしたんだ、僕は――?
 そっと人差し指を唇に置く。戸惑いは熱く、そしてとても甘い味がした。





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