「好きよ」
こんなにもこの場に相応しくない言葉があるだろうか。
それは最初、ホグワーツ特急の中ですれ違った時、たまたま軽くぶつかった時のことだった。たいそう不快に思いながらも気にしていないと告げると、彼女は薄く笑っていった。
「好きよ」
当然、怪訝に思った。
「──その瞳。好きよ。ギラギラしてて」
奇妙な女だ、というのが最初の印象だった。
彼女はいくつか年上だった。見た目は決して悪くない。ただ、それだけではない何かが彼女を目立たせていた。だからスリザリンの中でも噂を聞くことはしょっちゅうだった。──グリフィンドール生であるというのに。
「好きよ」
たまに廊下ですれ違う度彼女は言った。
「好きよ。あなたの上手な仮面ごと」
ばれているのではないか、と危惧すらした。ある意味、恐ろしい存在でもあったのかもしれない。彼女の真意を理解するには、幼すぎた。
「好きよ」
ある日、腹に据えかねて強引に唇を奪ってやると、また笑って言った。
「好きよ。その炎のような心も、熱も」
──その秘め事に似たやりとりは、彼女の卒業まで続いた。
そして、今、騎士団に属する彼女に、闇の帝王は杖を向けていた。
「愚かな」
「ええ、でも好きよ」
ならば何故。問うても無駄なことは分かり切っていたが、それは思わず口に出た。
「あらあら、まだわからないの?」
若々しさを失っていない彼女は、艶やかな笑みを浮かべた。
「──愛は、理屈じゃないのよ」
そうか。
理解した後、帝王は理屈によって杖から緑の閃光を放った。
(Voldemort)
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