時ノ記憶

 ゆらゆらと影が沈む。幾多の影が。
 それは緋色か闇色か、どちらにせよ、見慣れた馴染みの色だった。
 時の彼方に埋もれていても、けっして逃げ切ることはできないもの。わかっているから抵抗はしない。冷静なのか無気力なのか、己でも判別しがたいと嗤う。
 ──夢では、虚勢を張っても意味がない。あるがままの自分、というものに近いこの状態では。
 あちらこちらに影が舞う。血など流したことはない。なのに、鉄の匂いが濃密だ。
 そして近づく、ひとつの影。
 死の気配など微塵も感じさせない笑顔が近づく。
 ──ああ。
 だからこそ、死を招いたのだ。他ならぬ己の思いこみが彼女の命を奪った。
 沈殿した汚物の中に紛れても、何故いつまでもそうして輝く。自分は闇と血に紛れ過ぎた。光は、もう苦痛でしかない。
 だから、必死に蓋をする。幾多の影に汚れた、記憶という名の鎖に絡めて。
 覚醒の間際に流れた涙は、存在しないことにして。

                                    

(Severus Snape)



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