0+.エピローグ

 ハリーは走るホグワーツ特急の車窓を眺めていた。雲ひとつない空から陽光が降り注いでいる。外はきっと暑いだろう。
「チェック!――ねえ、ハリー。君、やる気あるの?」
 ロンとのチェスは良い勝負とは言い難いものだった。何せ、ただでさえロンはチェス名人なのに、対するハリーは上の空だったからだ。それなのに「うん。何?」と適当な相槌を打ったので、ロンのルークが暴れだし、そこでやっとハリーはチェックをかけられたことに気がついた。
「ハリー、あの……やっはり、チョウのこととか、気にしてるの?」
「ううん。まったく」
 それは本音だった。ハリーが思い浮かべていたのは、同じ黒髪でも、もっと明るい、ひまわりのような笑顔の少女のことだった。
「――あら、ハリー。それ、何?」
 新聞から顔を出したハーマイオニーが尋ねた。ハリーのポケットから、赤い布のようなものが覗いていた。ハリーはそれを取り出して、みんなに見せた。
「これ、漢字よね」
「きれいだね」
「中国語?」
 ハーマイオニーとネビル、ジニーは不思議そうにそれを眺めた。
「日本語だよ。日本の、お守り。その字は勝利って意味さ」
「何で君が日本のお守りを?」
 訝しがるロンに、ハリーはにっこり笑って言った。
「友達が、くれたんだ。遠くにいる、かなり特別な――親友が」
 きょとんとしたみんなをよそに、ハリーは窓から空を見上げた。
 忘れないよ――理生。
 君と、泰宏と、三人で過ごした夏の日を、僕は絶対に忘れたりしない。
「Arigatou」
 ハリーはこっそりと、魔法の言葉を空に唱えた。




- 了-


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