5.Presents

 クリスマス・イブの夜は真夜中までマリアとお菓子やジュースを食べながら色々と話し続けた。マリアとノエルはふたりとも読書が大好きで、ラジオを流しながら魔法界で最近話題になった本や発掘したマグルの本の情報を交換するのが休暇中のお決まりだった。ノエルにとって、マリアは母親というより親しみやすい姉のような存在なのだ。実際、一緒に買い物に出かけると、姉弟と間違われることが度々あった。
 そんな調子でしゃべっていたため、当然寝付くのは遅かった。ところが、マリアの方はお日様の方が性に合うらしく、朝になると早々にノエルを起こしに来た。
「ほーら、起きなさい!朝よ」 
 マリアはカーテンを開け、布団に潜り込むノエルをバシバシと叩いた。
「……休みなんだから、寝かせてくれてもいいじゃないか……」
 ブツブツ言いながら寝返りを打つと、マリアは大きくため息をついた。
「全く、ピチピチした若者がベッドでサラリー魔ンみたいなこと言って!」
「俺はピチピチしてない……」
 若者でなければ寝かせてもらえるなら、今すぐ渋い親父になりたい、と心底願いながらノエルは枕で顔を隠した。
「いいから、四の五の言ってないで起きなさい!せっかくのクリスマスでしょ!いいのかしら、私がアンタのプレゼント開けちゃっても?」
「どうせたいしたものなんてないよ……」
 そう言いながらノエルは再び睡眠体勢に入ろうとした。
「あら〜?じゃあこれは何なのかしら。親愛なるノエルへ。まー、可愛らしい字!何々?えーっと。送り主は……ゆっぱり女の子ね」
 冗談じゃない!
 ものすごい勢いでベッドから飛び出たノエルは、にやにや顔のマリアから手紙とプレゼントを奪取したが、送り主の名前を見てたちまち興味を失った。
「何だ、アイリーンのか……」
 はあ、と肩を落としたノエルを見て、マリアは苦笑いを浮かべた。
「……あんたって子は、本当わかりやすいわね。まあ、いいところでもあるんだけど。もうすぐ朝ご飯の用意できるから、早く着替えなさい。いいわね?」
「了解」
 マリアが部屋から出て行くと、ノエルは仕方なしにアイリーンの手紙を開けた。


 親愛なるノエルへ 

    メリー・クリスマス!
    大好きなノエルにとっておきのプレゼントを用意したの
    頑張ったんだから! 絶対使ってね

         愛を込めて  
         あなたのアイリーン・プレスコット


 そしてアイリーンの言う「とっておき」のプレゼントとは、ゆうに3ヤードはある七色の手編みのマフラーだった。端の方には、大きく「ノエルアイリーン」と編み込まれている。……ノエルはまたため息をついた。
 ――悪い子じゃないんだけどな。
 ノエルはアイリーンの可愛らしい顔を思い浮かべながら憂鬱な気分になった。アイリーンのことを嫌いではないから傷つけないように断り続けているのだが、それもここまで来ると少しばかり疲れてくる。友人の中には「付き合えばいいじゃん」と騒ぐやつらもいるが、ノエルはどうしてもそうしようとは思わなかった。彼女の振るまいを見ていると、自分と合うとは思えなかったからだ。
 それに――付き合うなら、本当に好きになった人と――って、何純情な女の子みたいなこと考えてるんだ、俺!
 ノエルは思わず赤面した。しかし、それがノエルの本音だった。そりゃあ、可愛いな、とか美人だなあ、と思うような子はたくさんいるけど、どうしてもこの人じゃなきゃ駄目だと強く思ったことはまだない。そしてアイリーンのことをそんな風に思える日が来るとは、ノエルには到底思えないのだった。
 そんなことを考えながらノエルは他のプレゼントを開け始めた。寮の友人たちからは、手袋、特性羽根ペン、悪戯グッズなどが、レイブンクローの六年生で親友のマイクロフト・シェリンホードからは「聞け」との短いメッセージとともにレコードが送られてきた。多分彼の趣味だろう。また親戚のニコラス叔父さんからは分厚い「神秘の研究 錬金術の魅力」という本か送られてきた。ちなみに、マリアからは日付が変わった時に腕時計をもらっていた。
 最後のプレゼントも明らかに本だった。リボンと包み紙を解くと、中からはマグルの推理小説が出てきた。しかも、ノエルの読みたがっていた「運命の裏木戸」だった。送り主は、と思って急いでカードを見ると、そこにはリリー・エヴァンスと記されてあった。
「リリー、最高!!」
ノエルは思わずガッツポーズをして喜んだ。そういえば、何かの拍子にこの本が読みたいとリリーに話していた気がする。リリーはきっとそれを覚えてくれていたのだろう。ノエルはいそいそと手紙を開けた。


 親愛なるノエルへ

 こんにちは、ノエル。
 調子はどう?今頃はお母様と素敵な休暇を過ごしてるかしら?
 私は今例のアレを仕上げたところよ。これがうまくいくといいんだけど……何でこんな何でもないことで緊張するのかしらね、私の心臓ってば!とにかく、頑張ってみるわね。
 プレゼント、あなたにも楽しんでもらえると嬉しいわ。
「クリスマスにはクリスティを!」ってマグルの本屋さんが宣伝してるのよ。
 あなたにも、メリー・クリスマス!

           友情を込めて リリー


 ノエルはリリーの手紙を何度も読み返した。それだけで何だか身体が暖まってくるから不思議だ。
 リリーも今頃、送ったプレゼントに喜んでくれているだろうか。
「ノエル!スープが冷めるわよ!」
 階下からマリアの声が響いてきた。ノエルは「今行く」と返事をして、大切にその手紙をしまった。




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