48.Friends, aren't we?

「触るな!汚らわしい人狼め」
 暗がりの中、いきなりの怒声にノエルは目を覚ました。だが、その声は自分へ向けられたものではないようだった。
「お前も一枚噛んでいたのだろう?」
 カーテンの向こう側から聞こえるその声はセブルスのものだ。
「……そんな、それは誤解だ」
 そしてそれに答える弱々しい声は、リーマスのものだった。夜が明けたのだろう。ノエルは頭を固定する包帯を外し、上半身を起こした。
「いつだって奴らとつるんでいるくせに、お前の言葉など信じられるものか」
「それは――」
 とにかく、止めないと。ゴシゴシと眠い目を擦りながら立ち上がる。
「……それでも僕は、自ら望んで他人を傷つけるようなことは、絶対にしない」 
「人狼の言葉など、誰が信じるか」
 カーテンの隙間に手を入れて覗くと、ベッドに腰掛けたセブルスが、傷だらけのリーマスに対峙しているのが見えた。
「ダンブルドアと約束したから、口外はしないが――僕は忘れない――お前が人狼だということを」
「スネイプ――」
「もう一度言おう。口外しない――だから、二度と僕に話しかけるな!」
 そうまくしたてると、セブルスは立ち上がり、捻った足を引きずって医務室から出て行った。リーマスは何も言わず、ただぼんやりと虚空を見つめていた。 
「リーマス」
 声をかけると、リーマスは泣きそうな顔でこちらを見た。
「……ノエル」
「大丈夫か?」
「君こそ、その頭……」
「大したことないから。それより、その傷の方が……」
 ノエルはリーマスを引っ張り、無理やり空いたベッドに座らせた。とりあえず目に入った消毒液とガーゼを取ってきて、どうにかしようと試みる。
「ほら、脱いで」
「ちょっと、ノエル、待ってよ。いいから……」
「脱がないと、手当できないだろ。とりあえず、止血しないと……」
 抵抗するリーマスのボタンをいくつか外して、ノエルは愕然とした。リーマスの身体には、痛々しい痕跡が無数にあった。古いいくつもの傷跡の上に真新しい傷が重なり、赤い血に染まっている。
 言葉が出なかった。
 ――今までにも妙に怪我が多いなと不思議に思ったことはあったけれど、まさか、ここまで酷かったなんて。
「だから、いいって言ったのに」
 自嘲するような声音でリーマスは言った。ノエルはぐっと唇を噛み締め、リーマスの傷をガーゼで清め始めた。血を拭い、消毒液を垂らしても、リーマスは何の反応も示さなかった。
「マダム・ポンフリーを呼んでくる」
 一通り、できるだけのことはしたが、消毒液以外は鍵の付いた薬品棚の中だ。これ以上のことはやはり専門家に任せた方がいいだろう。
「――君は、怖くないの?」
 立ち上がったノエルに、リーマスが尋ねた。
「怖いよ」
 ノエルはリーマスの目を見据えて言った。昨夜、恐怖に心を凍りつかせたものと同じ瞳が、そこにある。
「人狼は、正直、ものすごく怖かった」
 リーマスが昨夜のことをどれくらいセブルスから聞かされたのかはわからない。だが、察しのいい彼のこと、だいたいの事情はわかっているのだろう。ノエルとセブルスが、リーマスが人狼であることを知ってしまったことも。だからノエルは、正直にそう告げた。
「……なら」
 リーマスは目を逸らした。
「どうして――」
 か細い声が尋ねる。
 ――どうしてこんな風に接することができるのかと。
 その声を聞いているうちに気づく。リーマスは、何よりも誰よりも、自分自身のことを恐れている。だから友人であっても距離を取るのだ。そしてだからこそ、その垣根を越えた存在――おそらく、ポッターやブラックを――無条件に受け入れるのだろう。
「『闇の魔術に対する防衛術』をちゃんと勉強してたら、わかることだ」
 満月の日以外の狼男は、普通の人間と変わらない。
「付け加えるならば、俺は馬鹿じゃないと自負してるし、あんまり偏見がある人間にはなりたくないと思っている」
 あまり暗くならないように、慎重に言葉を選びながら話しかける。
「それに――友達、だろ?」
 照れくさい台詞だ。言ってしまってからノエルはちょっと後悔した。しかしリーマスはきょとんとした表情になってから、いきなり肩を揺らし始めた。
 何かまずいこと言っただろうか、と心配して顔を覗き込むと――リーマスは笑っていた。
「ごめん。君が、ジェームズと同じこと言うから……」
「まったく嬉しくないよ、それ」
 あのポッターと同じ台詞なんて、考えただけでも嫌だ。
「案外、君たち、似てるのかも」
「冗談でもやめてくれ」
 眉間にしわを寄せるノエルに、リーマスはくすくす笑った。そうしているうちに扉が開き、マダム・ポンフリーが姿を見せた。
「ルーピン!戻ってきていたのですか――ガードナー!あなたはまだ寝ていなくては駄目です!」
 ノエルは無理やりベッドに戻され、リーマスも包帯でぐるぐる巻きにされた。マダム・ポンフリーはセブルスがいなくなっていることに気づき、ひどくおかんむりだったので、時々リーマスから「あいたっ」という声が上がった。ノエルは再びベッドに横になってぼんやりと校医とリーマスの声を聞いていたが、何か大事なことを忘れているような気がして落ち着かなかった。しかしそれでも心地よい毛布の温かさに耐えられず、しばらくして夢の世界に落ちていった。



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