Women's Instinct -女に備わる自然の摂理-
 どうして女の子ってこうなのかしら。リリー・エヴァンズはため息をついた。
「それでそれで?メリーは誰?」
「うーん、やっぱりグリフィンドールの同級生ならダントツでシリウスだけどー、七年生のアイザックも捨てがたいわ」
「ええー?アイザック・オニール?私好みじゃないわ。先輩なら、レイブンクローのジャスティンよ。監督生だし!」
 リリーはグリフィンドールの同級生たちと図書館に向かう途中だった。彼女たちはさっきからずっとホグワーツのかっこいい男の子の話で盛り上がっていたが、リリーはいまいち乗り切れなかった。かっこいい人と好きになる人は違うとリリーは常々思っていた。満場一致で誰もがハンサムだと認める同級生、シリウス・ブラックは格好良くても友達にもなりたくない性格の持ち主だったし、ポッターなんかも一部の奇妙な嗜好の持ち主にはは受けがいいらしいが(可哀想に、きっと彼女たちは糞爆弾の被害にでも遭って目が腐ってしまったに違いない!)リリーにとっては論外だ。それは極端な例だとしてもやはり、リリーはかっこいい人を見ても彼女たちのようにキャーキャーと黄色い声をあげる気にはならなかった。
「あら、他の寮でもいいんだったら、私、スリザリンのノエル・ガードナーがいいわ!」
「ノエル・ガードナー?」
 リリーにとっては初めて聞く名前だった。同学年の生徒ならほとんど覚えているから、恐らく違う学年の生徒なのだろう。
 それよりも、スリザリンという言葉から偏屈な傾向のある幼なじみの顔が思い出されて、リリーはこっそり顔をしかめた。スリザリンの中にはまともな人も、偏見のない人もいるのかもしれないが――実際、スリザリンの寮監であるスラグホーンはマグル生まれのリリーが大のお気に入りだ――セブルスは良からぬ連中と付き合いが深くなっていくように見える。
「あ、噂をすればなんとやらよ!こっち来るわ!」
 そんなことを考えていると、メリーが指した方からひとりの男子生徒が歩いてきた。リリーも声につられて話題に上っていた生徒を見つめる。
 背はそこそこに高く、癖のない黒髪がさらさらと揺れている。がに股でもなければ猫背でもなく、手足を交互に動かす姿は颯爽としていた。だんだんと距離が近くなり、確かにその顔立ちはすっきりと整っていることがわかった。そして彼はリリーたちを追い抜かして図書館の方へと消えていった。
「はあー……やっぱりカッコイイわ……」
 うっとりしながらヘンリエッタはノエル・ガードナーの後ろ姿を見つめている。
「彼、スリザリンでもあんまり群れないし、他の寮の人にも優しいのよ。私、この前落とした羽根ペン拾ってもらったの」
「シリウスみたいな攻撃的な高慢ちきでもないし、ジェームズみたいな鼻につく卑劣な悪戯野郎でもないし」
「ほんっと、かっこよくて優しいなんて、最高!」
「私、ファンになっちゃった。あーあ、何でスリザリンなのかしら。残念!」
 どうやらみんな、あのガードナーという男の子の魅力にやられたようだ。リリーは付いていけなくて、またため息をついた。
「あら、リリーはお気に召さない?」
「そんなことないけど。確かに魅力的な人だと思うわ」
 そう言いつつリリーはあのすっきりとした横顔を思い浮かべてみた。ほんの少し見ただけだったが、深い色の瞳と人をドキッとさせるような長い睫毛が印象的な人で、確かにかっこいい――少なくともリリーはそう感じた。
「でも、話したこともないんだから、どんな人かわからないもの。好きになりようがないでしょ?」
「リリー、そんなんじゃいくらあんたが美人でも、いつまでたっても恋ができないわよ!」
 唯一ボーイ・フレンドのいるアメリアが言うと、妙に説得力があった。リリーは一瞬ぐっと押し黙ったが、少し拗ねた口調で言い返した。
「――だって、恋って、するものじゃなくて落ちるものでしょ?無理矢理誰かを好きになるなんて、おかしいと思うわ」
「あーもー、何であんたはそんなに頭でっかちなのかしら」
 メリーが大げさにため息をついて見せた。
「ホント、リリーが恋に落ちた時は、さぞかし見物でしょうね」
 アメリアがふふふと妖しく笑う。
「初恋もまだなんて、何て可愛いのかしら、この子は!」
「言わないでよ!」
 リリーは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。メリーもヘンリエッタも、思わず笑う。
「それにしても、やっぱりノエルカッコイイなー。私、狙っちゃおうかなー」
 そしてまた話題がノエル・ガードナーに戻っていったのでリリーは少し安心した。   
「あの、アイリーン・プレスコットのアプローチを断り続けてるところもポイント高いよねー」
「プレスコットですって!」
 これにはリリーも反応した。何せ、リリーはプレスコットに何度か嫌がらせを受けていたことがあった。リリーにはさっぱり身に覚えのないことだったのだか、後に情報通のメリーによって、単に男子生徒にリリーが人気があるという、それだけの理由で標的にされたことが発覚した。以来、リリーはプレスコットを毛嫌いしている。
「まあまあ、リリー。落ち着いて」
「全く、あんな性格なのに、一部の男には人気があるからね、あいつ」
 メリーがしみじみ言うと、アメリアがコホン、と咳払いをひとつした。
「まあ、ひとつ確かに言えることは、諸君」
 一同は恋愛において先輩と言える彼女の言葉を静かに待った。
「女がいいオトコを探すってことは、自然の摂理ってやつなのよ」
 そうして彼女は艶やかに笑った。
 ――本当にそうなのかしら。
 いまいち納得できないでいるリリーに、みんながみんな、「そのうちリリーにもわかる日が来るわよ」とニヤニヤとした笑顔を送った。






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