47.After the Disturbance

 靴音を響かせて入ってきたのはマクゴナガルだった。
「連れて参りました」
 ノエルはこんなマクゴナガルを見たことがなかった。声は枯れているし、いつもきっちりとセットされている髪は乱れ、こめかみに青筋が浮き出ている――凄まじい形相だ。
そしてその後ろには、ふたつの黒い頭が見えた。ポッターとブラックだ。擦り傷だらけで服もボロボロだ。ふたりともいつもの親密さは何処へやら、お互いにそっぽを向いて絶対に目を合わせないようにしていた。
「ガードナーは?」
「先ほど目が覚めた。話も聞いたところじゃ」
 ノエルのところまでやって来て顔を見ると、マクゴナガルは少しだけ表情を柔らかくした。
「……本当に、無事でよかった」
 その安堵の息に、自分たちが本当に危険なところだったのだと思い知らされた。一歩間違っていたら、死んでいたかもしれない――そう考えると今更肝が冷えてきた。
「スネイプは?」
「ここじゃよ、ミネルバ」
 ノエルから見えないところでスラグホーンの声がした。ダンブルドアがパチンと指を鳴らすと、ノエルの周りのカーテンが全て開き、そこでようやくセブルスの姿が確認できた。彼はノエルの反対側のベッドにいた。片足は包帯でぐるぐる巻きにされているが、今にも決闘を始めそうな顔でポッターとブラックを睨みつけている。
「さて、全員揃ったな」
 マクゴナガルが杖を振った。恐らく、防音呪文だろう。
「ジェームズ、シリウス」
 ダンブルドアがむっつりと沈黙したままのポッターとブラックに声をかけた。
「セブルスもノエルも、リーマスの秘密を口外しないことを誓ってくれた。安心するがよい」
「信じられるか」
 ブラックがスネイプをギラギラした目で睨みつけた。
「それは君の行いが招いたものじゃろう、シリウス」
 静かな声でダンブルドアは言った。
「既にジェームズに言われただろうが、君の行いは、軽率で、浅慮で、残酷なものだった」
 ブラックはぐっと黙り込んだ。
「本当は君とてわかっておるのじゃろう?何より、友に殺人を犯させるような真似をしてしまったことを」
 ブラックの顔に苦い色が浮かんだ。リーマスに対しては罪悪感があるらしい。不承不承ながらも「すみませんでした」という言葉が発せられた。
「謝罪を向ける先が違うのではないか?」
 ダンブルドアの声は相変わらず静かだったが、逆らい難い力を持っていた。ブラックはセブルスに向かい、形ばかりの謝罪をした。
「……悪かった」
「それが謝罪の態度だというのか?」
 セブルスの言うことはもっともだった。ブラックは屈辱に端正な顔を歪ませ、歯を食いしばってから、もう一度言った。
「――俺が悪かった……すまない」
「それで殺されかけたことを許せと?」
「この……!」
「セブルス」
 再び臨戦態勢になったブラックをダンブルドアが手で制し、セブルスに向かって告げた。
「君がリーマスの秘密を探ろうとしていたことも、誉められた行為ではあるまい。好奇心は時として猫をも殺すものじゃ。おまけに君はノエルの制止にも関わらず、校則を無視して『暴れ柳』へ近づき自らを危険にさらした――スリザリンから五十点減点じゃ」
「ダンブルドア!」
 スラグホーンが抗議の声を上げた。
「セブルスは悪質な悪戯の被害者ですぞ!彼だけでなく、ノエルだって殺される寸前だった――」
「ホラス、わかっておる。少し黙っていてくれんか」
 ダンブルドアは不満タラタラのスラグホーンに目もくれず、次にポッターをその瞳に捕えた。
「ジェームズ」
 ポッターを見つめるその目は、ブラックの時と同じ静謐さを宿していた。
「危険を顧みずセブルスを助けようとした君の行いは、グリフィンドール生の鑑じゃ。気を失ったノエルをここまで連れて来たことも。だが、その後がちーとまずかったのう。談話室を半壊してしまうとは……」
「申し訳ありません」
 ポッターは潔く謝った。普段からこの殊勝さがあればちょっとはましなのに、とノエルは思った。
「談話室の件では、ふたり合わせていくら減点したのじゃ、ミネルバ?」
「二百点です」
 ノエルはとんでもない数字に唖然とした。に、二百点って――馬鹿じゃないのか、こいつら!
「そうか。では儂から、シリウスの軽はずみな言動に対しさらに百五十点減点。ジェームズの勇気ある行動に対し四百点を加点しよう」 
 つまり、減点は全部で三百五十点、加点が四百点で、グリフィンドールは五十点の得をしたことになる。腑に落ちないものを感じるが、そういえばダンブルドアはグリフィンドール出身だった。「勇気」に重きを置くのはそのせいかもしれない。
「そして、ノエル」
 名前を呼ばれ、ダンブルドアを見る。
「君は偶然会話を聞いてセブルスを引き止めようとし、怪我をした彼を放っておけずにその後を追い、結果守りきった――その誇り高き行為に対し、スリザリンに百点を与えよう」
 セブルスの減点を加味すると五十点になるが、それでも大きな得点だ。ノエルはびっくりして固まり、実際は大したことをしていないのに良いのだろうか、ともやもやした気持ちになった。
「談話室の件については、マクゴナガル先生から処分が下る」
 どれだけ厳しい罰が待っているのだろうと思わせる恐ろしい表情でマクゴナガルは自寮の生徒たちを凝視した。
「よし、では皆、今宵はゆっくりと休むのじゃ。セブルスとノエルは怪我が治るまでよく養生するのじゃぞ――以上!ポピー、ふたりを頼みましたぞ」
 ダンブルドアが出て行くと、マクゴナガルがポッターとブラックを引き連れてその後に続いた。スラグホーンはセブルスに何か話しかけていたが、最後までそれを聞いていることはできなかった。緊張の糸が切れたのか、猛烈な睡魔が襲ってきたのだ――どうやら自分はものすごく疲れているらしい。ノエルは瞼の裏の闇へと身体を委ねた。






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