42.The Misunderstanding

 ハロウィン・パーティーの終わったホグワーツは何処か甘ったるいムードに包まれていた。それはここ一週間ほどあちこちに散乱したお菓子たちのせいでもあり、パーティーをきっかけにあちこちでカップルが成立したことも原因のひとつであった。
 しかしノエルはその甘い雰囲気に浸かることはできず、ただただ頭を悩ませていた。
「――どうすりゃいいんだ」
 ノエルは深々と吐息を漏らした。
「朝食の席には既にいない、お昼も徹底的に避けられた、放課後はグリフィンドール塔に籠って出てきやしない!誤解を解きたくて手紙を送ったけど封も開けずに戻って来る!」
「じゃあ私にすれば?」
「だから、そういう問題じゃないの!」
 一向にリリーに会ってもらえないので、ノエルは仕方なくスリザリンの談話室で課題を消化していた。そこにいつの間にかリリアンが現れて一緒に勉強していたのだが、これはこれでまずいような気もする。もちろん、ノエルはリリアンを友人だと思っているので、やましいところは何もないのだが。
「冗談、冗談」
「……楽しんでる?」
「……まさか」
 じゃあその間は何なんだ、とノエルは怨みがましい目でリリアンを見たが、本人は何処吹く風といった体だ。
「せめて弁解させて欲しいんだけど……」
「彼女の友達に頼めば?」
「――それが俺、いまいち顔を覚えてなくて……」
「ルーピンは?」
 リリアンの一言に、ノエルはガバッと顔を上げ、羊皮紙も教科書もそのままに立ちあがった。
「それだ!――ありがとう、リリアン!」
 ひらひらと手を振るリリアンを談話室に残し、ノエルはグリフィンドール塔へと向かった。急ぎ足で八階まで駆け上がると、ちょうどグリフィンドール生が寮に入ろうとしているところだった。
「ねえ、君!」
 振り返った金髪の少年は、見たことのある顔だった。ポッター軍団のひとり、ピーター・ペティグリューだ。彼はノエルを見るとびくっと震え逃げ出そうとしたが、段差に蹴躓いて派手に倒れた。
 ――何で逃げる?
「大丈夫か?」
 どうやら鼻を強か打ったらしく鼻血を出しているペティグリューに、ハンカチを差し出す。ペティグリューはつぶらな瞳をパチクリさせた後、もごもごと「あ、ありがと」と言いながらそれを受け取った。
「脅かすつもりはなかったんだけど……あの、リーマスを呼んできて欲しかっただけなんだ」
「あ、なんだ、そうだったの。僕はてっきり……」
 てっきりなんだ。訝しむノエルの視線にペティグリューは怯え、「呼んでくる!」と叫んでグリフィンドール塔へと入っていった。
 リーマスはすぐに出てきた。ノエルが片手を上げると、リーマスは苦笑しながら近づいてきた。
「ピーターに声をかけたの?」
「ああ。それが?」
 リーマスは肩をすくめた。
「君がジェームズを殴ったりしたもんだから、自分が報復されるんじゃないかって怯えてるんだよ」
「……何で俺がそんなことしなくちゃいけないんだ?」
「ノエルは他のスリザリン生とは違うってよく知らないからだよ。ま、それはどうでもいいとして――用って、エヴァンズのことかい?」
 ノエルは頷いた。
「どんな様子?」
 リーマスは「太った婦人」の絵を見て、首を横に振った。
「落ち込んでる。ジェームズがハロウィン・パーティーのことでからかったら、殺されかけたくらいに」
「……そうか」
 リリーはマイナスの感情を怒りに変えることでストレスを発散しているふしがある。ポッターならいい的になるだろう。たまには役立ってもらいたい。
「喧嘩したの?」
「喧嘩、というか……誤解、というか」
 さすがにリリアンの件を話す気にはなれなかった。それにあの時、ノエルとリリアンが現れた時、既にリリーの目は赤かった。説明しづらいので曖昧に濁すと、リーマスは目を細めてノエルを見た。
「……やましいことはしてないよ。ちゃんと話したいのに、会ってくれないんだ。俺を避けてる」
 だから協力してほしい、と頼むと、リーマス困ったような笑顔で頷いた。
「でも、大したことはできないよ」
「いいんだ。ありがとう。……えっと、そうだな。明日の夜八時、マクゴナガルが呼んでるとか適当に言って、トロフィー室に来るように伝えてもらえるか?」
「わかった。必ず言っておくから」
 にこっと笑ったリーマスに、ノエルも笑って返した。それからローブのポケットにカエルチョコレートが入っていたことを思い出し、引っ張り出して投げ渡す。
「お礼」
「確かに頂きました」
 リーマスは嬉しそうに箱入りの茶色いカエルを眺めていた。
 ――それは、リリーが好きなんだ。
 喉まで出かかった言葉を呑みこみ、ノエルはリーマスと別れ、長い階段を降りていった。
 あの時、リリーは――泣いていた。
 それも自分のせいなのだろうか。それとも、彼女に何かあったのだろうか。
 勝気な彼女は、強くてしっかりしていて、滅多なことでは泣かないけれど――それでもやっぱり、女の子なんだ。俺の、大事な――女の子。
 傷つけたのなら謝りたいし、他のことで泣いていたのなら、傍にいてあげたい。
 とにかく、明日だ。嘘をついて呼び出してでも、話をしなければ。
 スリザリン生らしい狡猾さを発揮し考えを巡らせていると、あっという間に一階に辿り着いた。ノエルは寮に戻ろうと地下に続く螺旋階段に足を踏み入れた。
「ガードナー卿」
 背後から声をかけられて、ため息をつく。
 その呼称は好きじゃない、と言おうとして振り返り――意外な人物に目を止める。
「君に話があるんだ」
 そこにはレギュラス・ブラックがひとりで立っていた。






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