23.Careers Advice

 イースター休暇が終わり、掲示板には進路指導の時間割が張り出された。ノエルは水曜の午後からで、はっきりとした進路を選択できないでいる彼にとってはこのイベントはかなり重要なものであるはずだった――が、どうにも落ち着けないでいた。
 それはもちろん、なめくじパーティーで出会ったアゼルバート・ワーズワースのせいであることは明らかだった。ノエルは彼が最後に放った一言を必死に忘れようと努めていた。しかし、それはまるで呪いのようにノエルに取り憑いて頭から離れない。おかげで当日の水曜日、同級生にスラグホーンのところに行かなくていいのかと尋ねられるまで進路指導のことすら忘れてしまっていた。
 急いで階段を駆け上がり、スラグホーンの部屋のドアを叩く。入ると、スラグホーンがでっぷりとした腹の上にたくさんのパンフレットを広げていた。
「時間ちょうどだね?座りなさい、ノエル」
 どうやら、ギリギリ間に合ったようだった。深く息を吸い込んでから席に着く。
「さて、では早速本題に入ろう。えー、ノエル・ガードナーくん。この面接は君の進路に関して話し合い、続く六年目七年目の授業選択を決める手助けをするものである。君はホグワーツを卒業した後のことについて、何か希望があるかね?」
 改まった口調のスラグホーンに、ノエルは曖昧に答えた。
「いえ、それが……まだ特にこれといった希望が……」
「ほーう、特にないとな?まあどの教科も素晴らしいからかえって難しいといえるのか……」
 スラグホーンは手元にある羊皮紙を覗きこみ、唸った。
「うーむ……君のこれまでの成績を見るに……いや何とも素晴らしい……大変よろしい……む、飛行術の成績がA(まあまあ・可)で他に比べれば劣るが……クィディッチ選手になるわけでなし……」
 ノエルは思わず頭を掻いた。何故かノエルが箒に乗ると指示した方向と真逆に行ってしまうのだ。試験の時は行きたい方向と逆に指示をするという邪道な方法で乗り切った記憶がある。
「いやいや、しかし魔法薬学は文句なくO(優)……担当科目の教授としては実に鼻が高いよ。他の呪文学、変身術、闇の魔術に対する防衛学、薬草学、マグル学、天文学もすべてO(優)!そしてE(期待以上・良)との中間にあるのは、数占い学、魔法史……いやいや十分十分……」
 褒められるのは悪気がしないが照れくさいものだ。居心地の悪さに首のあたりがむずむずする。
「ふーむ、これでは最難関の闇祓いを奨めるほかないかね?」
 ぎょっとして思わず瞳孔が開く。そんな職業を奨められるとは夢にも思っていなかった。
「有り難いお言葉ですが、先生、闇祓いはちょっと――僕の性には――」
 慌てて口実を創り出そうとするノエルに、スラグホーンがホッホッと笑った。
「冗談だよ。あんなに死亡率の高い職に可愛い教え子を放り込むものか。……しかも、このような時勢に」
 途端にスラグホーンは真顔になった。ここ一年ほどマグルが闇の魔術を用いた集団に虐殺されている事件が続いている。「例のあの人」、そしてその部下「死食い人」の仕業なのはもう疑いの余地がなく、その捜索に当たっている闇祓いが何人か亡くなっていた。
「そうだ、魔法省はどうだろう。マリアもいることだし」
「魔法省、ですか」
 またワーズワースの顔が脳裏に浮かんだ。
「給料も安定しているし、やりがいもある。君はマグル学もとっているから――」
 ああ、駄目だ、今は進路指導中なのに。つい考えてしまう。ワーズワースのあの言い方は――恐らく彼は知っている――ノエルの父親のことを――それに、もしかしたら……。
「――という風に様々な部署がある中でも、やはり君に奨めるのは――……ノエル?大丈夫かね?」
 はっと正気に戻る。スラグホーンが怪訝な顔をしてこちらを覗きこんでいた。
「すみません。ちょっと風邪気味で……でも大丈夫です」
「そうかね?無理はいかん。後で医務室に行って『元気爆発薬』をもらってきなさい」
「はい」
「大事な時期なのだから、身体は大切にせんとな。ええと、それで続きだが……総合するとやはり君には魔法事故惨事部や国際魔法協力部が良いと思う。まあ、部署が違ってもそれこそ闇祓いのような特殊な専門職でないかぎり入口は一緒だからね。NEWT試験で少なくとも五科目をE(期待以上)でパスすることが要求されるが……このままの成績で頑張れば大丈夫だろうて」
 スラグホーンの頭の中ではノエルの進路は魔法省に決定しているようだ。まあ、いいか。ノエルはその後のスラグホーンの話を頭半分で聞きながら、どうやったらあの言葉の真意を探れるかを考えていた。マリアに直接聞くか――それは回答が期待できなさそうだし、何よりマリアを悩ませるのは嫌だ――それとも――もう一度ワーズワースに会うか。
 そこでひとつの考えが閃いた。
「スラグホーン先生」
「何かね?」
「この前お会いしたミスター・ワーズワースのご連絡先を教えて頂けないでしょうか。――魔法省のことを、お訊きしたくて」
 もちろん、後半は口実だ。しかしスラグホーンはそんなことには気付かない。
「アゼルかね?もちろん、喜んで教えるが――君にはマリアがいるではないか」
「母だと――ちょっと。身内以外の方からお聴きしたいんです。物事の本質を見極めるのには多角的な視点が必要でしょう?」
 いかにもスリザリン生っぽく囁くと、スラグホーンは満足そうに笑った。
「確かに。賢明な判断だ。どれ――」
 スラグホーンはパンフレットの山を机に置き、住所録を取り出してパラパラとめくった。
「えーと……ああ、あった、これだ」
 羽根ペンを走らせ、羊皮紙に連絡先を綴ると、スラグホーンはにっこり笑ってそれをノエルの手に置いた。
「頑張りたまえ」
「はい、ありがとうございます」
 手段は多い方がいい。ノエルもにっこり笑ってみせた。






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