18.Penal Regulations

 とても幸福な時間の後、ふたりはよううやく自分たちの身分――ホグワーツの学生であることを思い出し、生真面目なことにそれぞれの授業へと別れて行った。本音を言えば丸一日サボっても一緒にいたかったが、リリーの生真面目さがそれを良しとしなかった。そしてノエルもOWLを控えた身であることを考えると、やっぱり授業に出ざるをえなかったのだ。
「ノエル、話がある。残りなさい」
 魔法薬学の授業が終わり、器具を片付けていたノエルにそう告げたのはスラグホーンだった。昨日の件か。罰則を受けるのが初めてだったので、少し緊張しながら同級生が地下室から出ていくのを待った。
「今日も君の調合した石化薬とその解毒剤は素晴らしい出来だったよ――君は優秀だ。そうだね、うん?」
 スラグホーンは長いセイウチ髭を撫でながらにやにやとした表情で話しかけてきた。
「ありがとうございます」
「うむ。君の母御もまた優秀だった――まあ、君と違ってレイブンクローではあったが。君がスリザリンに入ってくれた時、私としてはとても嬉しかったものだよ」
 ノエルはこの教授が嫌いではなかったが、得意でもなかった。とにかく自慢したがりなのだ――そこさえ押さえていれば、扱うのは苦ではない。
「だが、決闘とは穏やかでないね。君にしては珍しい。しかもあのポッターと――」
 ノエルは苦笑するほかなかった。自分だって昨夜からのことを思い返すと驚かずにいられない。規則を破ってホグワーツから抜け出したり(これはバレていないが)、ポッターの安い挑発に乗って決闘したり――今日はまた、惚れ薬を飲まされてあんなことをしてしまったり、それを誤解したリリーを見つけて――いや、このことを考えるのはやめよう。身体が熱くなって冷静ではいられなくなる。
「イースター休暇が来て、夏学期になればすぐOWLだというのに。大事がなかったからいいものの、そんな危険で無謀な真似は賢いスリザリン生のするべきことではない。わかるね?」
「……はい。軽率でした」
「うむ。そう言ってくれると思っていたよ」
 スラグホーンは満足気に目元のしわを深くした。
「しかし残念なことに、違反は違反。君には罰則を受けてもらわねばならない」
「何をすれば良いのでしょうか?」
「今日から三日間、図書館の禁書の棚の掃除だ。気をつけて取り組みたまえ」
 そんなことでいいのか。ノエルは拍子抜けした。
「ただしマグル式だ。丁寧にやるのだぞ。そして、もうひとつ」
 まだあるのか。気を取り直して続きを待つ。スラグホーンがにやりと笑った――いやな予感がする。
「イースター休暇の夜、私の催すパーティーに出席すること」
 ノエルは絶句した。
「君、最近私のクラブに全然こなかっただろう?パートナーを連れて、着飾って来るんだ。これは絶対だ」
 スラグホーンの言う通り、彼のクラブ――通称、「スラグ・クラブ(ナメクジクラブ)」には誘われて一度だけ行ったことがあるのだが、その時にパーティーに集まる強烈な自己主張の連中にすっかり嫌気がさしてしまい、それからずっと行っていない。
「後から正式に招待状を出す。だからちゃんと来るんだ、ノエル。いいね?」
「――はい」
 それ以外に何て返事ができただろう?友好的に肩を叩くスラグホーンに、ノエルは諦めの笑みで応えた。
「……ポッターも、同じ罰ですか?」
 何気なく尋ねると、スラグホーンは頭を振った。
「あの子はマクゴナガル先生が別に処分を下す。まったく、素晴らしい才能があるのに、あの性格は頂けない――」
 同感だ。しかし今朝の彼の行動からすると、その性格について少し考え直さなければならないのかもしれない、とノエルは思った。彼に礼を言う気は毛頭なかったが(だって彼が勝手にやったことだ。彼が調合せずとも、どのみちマダムによって解毒剤を飲まされていただろう)、ただのいやな奴――というだけでは、ないのかもしれない。希望的観測のような気もするが。
 それからノエルは地下室を辞し、昼食のため大広間に向かおうとした。
「よっ」
「マイク――」
 廊下の角で姿を見せた親友は、その手に大量のサイドウィッチを抱えていた。
「昼飯、持ってきた。その辺で話しながら一緒に食おうぜ」
 中庭のベンチに座り込み、ノエルとマイクロフトは黙々とサンドウィッチに手を伸ばした。よく考えたらすごく腹が減っていた。
「セシリアは?いいのか?」
「ああ。それより、お前の方は片はついたのか?」
 ピーナッツバターとアボガドとサラミという凄まじい組み合わせのサンドを頬張りながらマイクロフトが訊いた。
「――おかげさまで、ね」
 何でもない風を装って告げると、マイクロフトはすべてを察したのだろう。にやりと笑った。
「雨降って地固まる、ってか。それなら良かった。おめでとう。安心した」
「アイリーンのことは――」
「アモルテンシアか?チクッたりしないよ。十点引いといたけど」
「……ああ、君が監督生だってこと、忘れてた」
「ひどい言い草だな。俺の学年に俺より賢い奴なんていないぞ」
 ちっともひどいなんて思っていない顔で軽口を叩く。けれども次に放った台詞は真剣なものだった。
「――あの子には、もう関わるな。軽蔑したふりしてシカトしろ。諦めさせてやるのも、優しさだ」
「……うん」
 途端に口の中のローストビーフのサンドウィッチがおいしくなくなった。もぐもぐと長く噛み、ゆっくりと飲み干す。
「そうするよ」
 うなづくと、マイクロフトの目が優しく光った。
「そういえば、スラグホーンから罰則聞かされたよ」
「何だって?」
 話題を変えるために言った言葉はマイクロフトの興味を引いたようだった。彼はノエルと違って、結構な罰則経験者だ。禁じられた森に入って薬草を取ってこいと言われ、大喜びで行って同行の先生とはぐれ一晩中帰ってこず、大捜索をかけられた事件はあまりにも有名だ。
「禁書の棚の掃除、マグル式で三日間」
「それだけか?」
「……いや。スラグ・クラブのパーティーに絶対出席、だってさ」
「ハッハー、御愁傷様!」
 彼もクラブに誘われては断っているメンバーのひとりだ。ノエルはため息をついた。
「そう落ち込むなよ。リリーと一緒に行けばいいじゃないか」
「そう……だね。でも疲れるんだよなあ、あの面子……」
「お前が行ったのって二年の時だろ?大分変わってると思うぜ。意外な発見があったりして」
 そうあってくれることを願うよ。苦笑するノエルに、マイクロフトはくつくつと笑った。




prev next
top
bkm


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -