12.In front of the Gryffindor Tower

 とりあえず、何とかグリフィントール塔まで来ることには成功した。
 ――さて、リリーを呼び出したいんだけど、どうしようか。
 そう思案していると、ちょうど良いところにグリフィンドールの生徒がこちらに向かって歩いてくる。ノエルはその人影に見覚えがあった。相手もノエルに気づいて、驚いた表情になる。
「――手紙、ありがとう」
 ノエルはリーマス・ルーピンに向かってまずそう言った。ルーピンは青白い顔に困ったような笑みを浮かべた。
「具合は、もういいのか?」
「大丈夫。君が運んでくれたおかげでね」
 敵意のない、穏やかな声だった。そういえば、ルーピンと直接話すのは初めてだ。ノエルはひょっとしたら彼とは知り合い以上の関係を築けるかもしれない、という期待を持った。
「あのプレゼント、俺なんかがもらっちゃって良かった?」
「君は信用できる人だと思ったから。エヴァンズから少し聞いてるよ、君についてね」
 ノエルは何だかムズムズした気持ちになった。それからノエルはルーピンに向かって右手を差し出した。
「ノエルって呼んでくれないか?」
「じゃあ僕も、リーマスと」
 リーマスはノエルの手を取った。握手を交わすと、ノエルもリーマスも、自然ににっこりとした笑顔になった。
「じゃあ、リーマス。お願いなんだけど、リリーを呼んできてくれないか?」
「もちろんかまわないさ。……プレゼントはもう役に立ったみたいだね?嬉しいよ」
 リーマスはそう言ってノエルの膨らんだポケットを見た。
「ありがとう。身体、お大事に」
 ノエルの言葉に身振りで応えた後、リーマスは肖像画の「太った夫人」に向かって合い言葉を囁き、グリフィントール塔へと入って行った。
 リーマスとは友人になれそうだ。それにしても、あんなに人当たりが良さそうなのに、なぜポッター一味に加わっているのだろう?そのあたりの話も聞いてみたいとノエルが考えていると、「太った夫人」の肖像画が動いた。
「ノエル!」
 リリーだった。部屋着なのか、今日会った格好とは違っていた。もちろん、どんな格好でもノエルはかまわなかったが。
「どうしたの?こんな時間に」
 そう思うのはもっともだ。
「えーっと……」
 ノエルはためらったが、結局素直な心情を述べることにした。
「リリーに、会いたくて」
 言った途端にリリーの頬が色味を増したのがわかった。その様子が何とも可愛らしくて、つい口元が綻んでしまう。
「……なっ、そんな、それだけのために呼び出したの?」
「ううん。あともう一つ」
 そう言いながらノエルは廊下の隅に移動して、リリーを手招きした。怪訝そうな表情ながらも、リリーは近寄ってきた。
 ――こういう時、何て言えばいいんだろう?
 そう考えながらノエルはリリーの瞳をじっと見つめた。
 リリーの瞳は、本当に綺麗だ。アーモンド型をした、透き通るような緑色。
「……ノエル?何か、その……あなた、様子が変よ」
「自覚はしている」
 苦笑すると、リリーは心配そうにノエルの顔を覗き込んだ。
「熱でもあるの?それとも、何か魔法薬でも飲んだ?」
 否定しながら、ノエルはポケットから包みを取り出した。それをはい、とリリーに渡す。
「開けてみて」
 リリーは何とも形容し難い顔つきで受け取った包みを解体し始めた。やがて、リリーの手に銀色に光る何かが転がり出て、彼女は息を呑んだ。
「これ……あの時の!?」
「そう」
 それはアクセサリー店でリリーが欲しがっていたシルバーのブレスレットだった。リリーの顔が驚きと喜びに光り輝く。
「いつの間に?」
 その問いには笑って答えない。
「着けてみて」
 言われるままにリリーがブレスレットを腕に通すと、飾りの銀細工の蝶が細い手首の周りをヒラヒラと舞い始めた。
「気に入った?」
 感激のあまりリリーは声が出ないようだった。ブレスレットとノエルの顔を何度も交互に見比べ、やっと声を出した。
「……もちろんよ!――ノエル、本当にありがとう!」
 そう言うなり今度はノエルにギュッと抱きついてきた。ノエルはビックリして一瞬固まってしまったが、やがてそっとリリーの身体に腕を回した。とても良い香りが鼻孔をくすぐる。
「大事に……大事にするわ」
 ノエルにはその言葉だけで十分だった。凄まじい鼓動の音と、暖かな気持ちと、リリーの身体の温もりが一緒になって、目眩がしそうなくらいだった。
 やがて我に返ったリリーがこの状態に気づいたらしく、ノエルの腕の中で身を縮める気配がした。名残惜しみながらゆるゆると腕を解く。
 すると視界に飛び込んで来たのは、真っ赤になったリリーの顔だった。鼻と鼻の先が触れそうなくらい、近い。緑色の瞳の中に、ノエルが映っている。
 リリーは何も言わない。ノエルも何も言えない。
 何か言葉を紡げば、吐息が交わりそうだった。心臓が跳ね、今にも口から飛び出そうだ。
 ノエルもリリーも、ある予感に動けなくなっていた。
 無意識にノエルはリリーの赤毛を耳にかけた。
 リリーの瞼が閉じられる。
 頭の中で何かが弾けた。
 導かれるように、リリーの顔に影を落として――。

「ノエル・ガードナー!!!」
 大きな怒鳴り声に、ふたりは思わず離れた。ついでノエル目掛けて飛んできた閃光を、すんでのところで右に動いて避けた。
 声のした方を見ると、そこには肩で息をし杖を振り上げたジェームズ・ポッターの姿があった。そのやや後ろには、ポッターを追いかけて来た様子のシリウス・ブラックの姿も見えた。  
「貴様――今――何を――しようと――!!」
「いきなり何するのよ!」
 リリーが眉をつり上げて怒鳴った。しかしポッターにはどうやらリリーの言葉が聞こえないらしい。
「貴様、エヴァンズに、何をした!!」
「ポッター、例え私とノエルがどういう関係だとしても、あなたには、全く――いい?全くこれっぽっちも関係ないことだわ!!」
 今度はリリーがポッターの声量に負けないくらいの声で怒鳴り返した。
「いいや、関係あるね!!エヴァンズ、こいつは、スリザリンだ!!――いいか、スリザリンなんだぞ!!」
 ノエルは頭を抱えた――色々な意味で。
「スリザリンだからって何?スリザリンとは仲良くするななんて校則はないわ!支離滅裂な発言もいい加減にして!!!」
 さすがに息切れしたらしく、ポッターはハアハアと喘いで息を整えている。その表情はリリーの発言に納得しておらず、ノエルを親の仇のように睨みつけていた。
「見苦しいな、ジェームズ・ポッター」
 ノエルはさらに言い返そうとするリリーを制止して言った。
「リリー、もういい。――この手合いは相手にしないのが一番だ。もう、寮に戻った方が良い」
「でもノエル!」
 憤然とした勢い冷めやらぬリリーに、ノエルは静かに囁いた。
「……今日は、楽しかったよ」
 途端にリリーの表情が真っ赤になった。
 しかしこれがまた余計にポッターの気に障ったらしい。嫉妬の炎をメラメラさせながらノエルの方に近づいて来ると、杖を構えてポーズを取り、一方的に言い放った。
「決闘だ」






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