11.A Surprise

 その夜、ノエルは夕食を取ることもせず、自室のベッドに転がっていた。ぼーっとしていたかと思えば、ニヤニヤした顔に変わり、かと思えば蒼白な表情になり、さらには火照る頬をビシバシ叩いたりと、周りから見ればとても不自然な百面相を繰り返していた。
 ようするに、ノエルは自分の自覚した感情に戸惑っていたのだった。こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだったし、こんな不安定な気持ちになる自分が信じられなかった。けれど、今日一日のリリーの表情や仕草を思い返すたびに、どうしようもなく暖かい気持ちが込み上げてくるのは確かな事実だった。
 だが、次からはいったいどんな風にリリーに接すれば良いのだろう?俺は今までにリリーに対して何か変なことを言ってなかっただろうか?一言も?今まで気にも止めなかったことが急に心配になってきてしまい、どうにも落ち着かない。
 ――でも、今日の最後の言葉の意味は?
 彼女がいつか聞かせてねと言った、俺の言葉の続きは――。
 たまらなくなって、正気に返ろうとビシバシと頬を叩く。
 全く、とんだ醜態だ!ノエル・ガードナー、しっかりしろ!
 バサバサバサッ。
 ふいに、煙突からフクロウが飛び込んできた。クチバシに手紙らしきものを摘んだその茶色のフクロウは、毛布にくるまっていたノエルをツンツンとつついた。どうやらノエル宛のものらしい。
「ありがとな」
 受け取って頭をなでてやると、フクロウは誇らしげにホーホーと鳴いた。クッキーのかけらを与えてやると、嬉しそうにそれを啄み始める。
 誰からだ?
 裏返すと、そこには意外な名前が書かれてあった。ペーパーナイフで素早く封筒に切り込みを入れ、中身を取り出す。


  今日は本当にありがとう。
  スリザリンの人が助けてくれたと聞いて、とても驚いたけど、同じくらい嬉しかった。
  それなのにせっかくのデートをぶち壊してしまったらしいね。
  お詫びとお礼を込めて、ちょっとしたプレゼントを贈ります。
  四階の「隻眼の魔女の像」のところに、ホグズミードに繋がる抜け道があるんだ。正確に言うと「ハニーデュークス」に繋がってる。方法は、「ディセンディウム、降下」と言いながら像を叩くだけ。
  もし今日行きそびれたところがあるのなら、使ってみて。

                      リーマス・ルーピン


 ノエルは三回手紙を読むと、杖を振って手紙を燃やした。他のスリザリン生に見つかると色々とまずい手紙だった。
 どうやら、ポッター一味とは言っても、少々ルーピンは毛色が違うらしい。もちろん罠という可能性もあったが、この文面や今日の様子からはそう思えない。
 ――行ってみようか。
 ルーピンが推測した通り、買いそびれたものがあった。そしてそれは、なるべく今日中に手に入れたい。
 しかし、それでももし規則を破って時間外にホグズミードに行ったと先生にバレれば罰則ものだ。ルーピンたちはしょっちゅう罰則を喰らっているから気にしていないのかもしれないが。
 時計を見ると、まだ六時過ぎだ。ノエルは少し逡巡して、それからコートを羽織って部屋を出た。 
 日が沈んだ冬のホグワーツはとても寒い。しかし目的の場所にだんだん近づくにつれて、鼓動が速くなりじんわり身体が熱くなってきた。自慢じゃないがあまり規則違反をしたことがない、こちらは優等生なのだ。悪事には慣れていない。
 隻眼の魔女の像の前まで辿り着くと、ノエルは他に人がいないのを十分に確認してから、「ディセンディウム、降下!」と囁き像を杖で軽く叩いた。
 すると、たちまち魔女のコブから半分に像が割れ、人がやっとひとり通れるくらいの小さな裂け目ができた。ノエルが急いでその中に身を滑り込ませると、背後で像が動く音がして扉が閉まった。
 ここまで来たら、進むしかない。
 恐る恐る歩いて行くと、先は石の滑り台のようになっていた。ノエルは覚悟を決め、えいっと勢いよく身を投げた。
 そのまま結構な距離を滑り落ちていくと、やがて冷たい石の上に着地した。さらに続く薄暗い道を、杖に光を灯して進んでいく。ようやく出口らしい隙間を見つけると、そこは商品が入った箱がたくさん並べられた倉庫に繋がっていた。
 その外は、ルーピンの手紙に書いてあった通り、もう人も少なくなったハニーデュークスの店内だった。
 ノエルは駆け出した。買いたい物がひとつだけあった。
 今日既に一度訪れた店の扉を開ける。もうほとんど人のいない店の中をぐるりと回り、ようやく目的のものを見つけた。なくなっていなかったことに安堵の息を漏らす。
「すみません、これ下さい」
 店の女主人は丁寧に品を包んでくれた。こちらの落ち着かない様子を、長いまつげの下から面白そうに窺いながら。
「はい、どうもありがとうございました」
 ノエルはそれを手に入れると、まるでスパイになったかのような気分でまたこっそり抜け道に入り、心臓を躍らせながらホグワーツに戻った。
「はああー、緊張した……」
 穴から出た直後、隻眼の魔女の像のところでホッと一息する。手に入れたそれの存在を確認すると、思わず口元が緩んだ。
 ――確か、ここから近いはず。
 消灯時間もある。ノエルは急いでグリフィントールの塔に向かった。




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