7.年度初めの宴会

 大広間の扉を開けると、思いのほか音が響いた。大勢の生徒たちが振り返り、シャーロットを見た。長テーブルの上に浮かんだたくさんのロウソクが、興味津津の生徒たちの顔を炎の灯りで映し出している。
「おお、ちょうど良かった」
 ダンブルドアが教職員テーブルの真ん中で立っていた。どうやら話の最中だったらしい。青い目が悪戯っぽく輝いた。
「三人目の先生のご到着じゃ」
 シャーロットはカツカツと靴音を響かせながら、真っ直ぐに教職員テーブルへ歩いて行った。汽車の中でシャーロットと吸魂鬼の対決を見ていたらしい生徒たちが「あの人、先生だったんだ――」「吸魂鬼を追い払った人だ!」と興奮気味に囁いているのが聞こえてきた。
「もう何かやったのか?」
「何でもないわよ。しばらく大人しくしてて」
 小声で言葉を返すと、肩に乗ったまままのフィンは普通の猫らしくニャアと鳴いた。
 途中、ウィーズリー兄妹がヒューヒューと口笛を吹いているのを見かけて、シャーロットはウィンクを飛ばしてみせた。すると双子は胸を押さえて「やられたあ」と心臓を打たれた振りをした。ジニーをそれを見て肩を揺らしている。まったく、愉快な兄妹だ。
「遅れて申し訳ありません、アルバス」
「いやいや。報告は受け取った。御苦労じゃったの」
 遅刻を咎めることなくダンブルドアは席に座るよう促した。自分の席――残念ながら、何度見ても空いているのはスネイプの隣しかなかった――に腰かけると、当然のようにスネイプがぎろりとこちらを睨みつけて来た。シャーロットはそんなスネイプに微笑みかけ、フィンを肩から膝の上に移動させた。
「えー、それでは、みんなに三人目の新しい先生をご紹介しよう。シャーロット・ブラック先生じゃ」
 シャーロットが生徒たちに向かって軽く会釈すると、割れんばかりの拍手が起こった。だが、中にはちらほらと戸惑う声もあった。
「ブラックだって?」
「あの脱獄したシリウス・ブラックと何か関係があるのか?」
「ただの同姓じゃないの?」
「まさか、あのブラック家?」
 がやがやする大広間をパンパンと手を打って静め、ダンブルドアは話を続けた。
「ブラック先生は、授業を円滑に進めるに当たってのアシスタントをしてくださる。主な担当は『闇の魔術に対する防衛術』ど『魔法薬学』じゃ。また、ありがたいことに、寮監の補佐も引き受けて下さった──彼女の出身寮、スリザリンの補佐を」
 たちまちスリザリンのテーブルが活気づいた。他の寮の生徒はひどくがっかりしたようだった。特にグリフィンドールの生徒にそれは顕著で、双子のウィーズリーは眉を反り返らせスリザリンに向かって悪態をついていたし、ジニーを含め大多数の寮生がそれを後押しするようにブーイングしていた。
 シャーロットはその様子を微笑ましく思い眺めていたが、ふわふわの髪の女の子が真っ直ぐこっちを見ているのに気づいて、にっこりと微笑んだ。ハーマイオニーだ。向こうもそれがわかったらしく、嬉しそうに手を振り返してくれた。
 そしてその隣には――ハリー・ポッターがいた。シャーロットはハリーの目をじっと見つめた。ハリーはそれに気づいて顔を赤らめたが、シャーロットが去年の最後の宴会の時の少年だとはまるで気づいていなかった。本当に、何処をどう見ても普通の男の子だ。
「さて、これで本当に大切な話はみな終わりじゃ」
 ダンブルドアがにっこり笑って声を響かせた。
「さあ、宴じゃ!」
 今まで空だった皿やゴブレットに次々と料理が現れた。生徒たちはわあっと歓声を上げ、宴会が始まった。
「……なぜ遅れた」
 ゴブレットを持ち上げたまま、スネイプが尋ねた。
「旧友に話しかけられたもので」
「それは、まさかとは思うが、その猫のことかね?」
「ええ。猫はお嫌い?」
 スネイプは見るのも嫌だとばかりにそっぽを向いた。
「フィン」
 合図をすると、フィンは不服そうな顔で「仕方ないな」と言い、シャーロットの膝から飛び降りた。勝手に厨房にでも行くだろう。
「吸魂鬼の影響はなかったのかね?」
 シャーロットはキドニー・パイを切り分けながら答えた。
「まったくないとは言いませんが、チョコレートを持って行きましたから。ルーピン先生も乗っていらしたことですし、大丈夫でしょう」
 スネイプは「そうではない」と告げ、シャーロットを見た。
「君のことだ」
「――私?」
 シャーロットはくすくす笑った。
「ご心配には及びません。ありがとうございます。――スネイプ先生こそ、もっとホウレンソウのソテーを召しあがった方がよろしいのでは?お顔の色が優れませんよ」
 スネイプはむっつりと眉間にしわを寄せ、「余計な世話だ」と言った。
 宴会のごちそうは相変わらずのメニューだった。シャーロットは他の教員たちと会話を楽しみながら、時々スネイプを観察した。どうしてだかこの男は、反対側の席にいるルーピンをギラギラとした眼差しで睨みつけていた。何か因縁でもあるのだろうか。まあ、それはおいおいわかるだろう。
 いよいよ最後のかぼちゃタルトが金の皿からなくなっていってしまい、ダンブルドアが生徒に就寝時間だと告げた。シャーロットは幸せな気分でそれを聞き、ナプキンで軽く口元を押さえた。
「おめでとう、ハグリッド!」
 教職員用のテーブルの反対側から黄色い声が聞こえた。首を動かしてみると、それはやっぱりハーマイオニーだった。ロンやハリーと一緒になって、ハグリッドに話しかけている。だがハグリッドはすぐにナプキンに顔を埋めてしまい、三人はミネルバに合図されてその場を去ろうとした。
「ちょっと待って!」
 ハーマイオニーが男の子ふたりにそう言って、こちらに駆けてきた。
「シャーロット!……じゃなくて、ブラック先生って言った方がいいのかしら?あなたって先生だったのね!びっくりしたわ!」
 キラキラと瞳を輝かせるハーマイオニーに、シャーロットは悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、私じゃ不満かしら?」
「そんなこと!ああ、本当に嬉しいわ!でもそうね、言うならば、グリフィンドールの寮監補佐じゃないのが、とっても残念──」
「グレンジャー、油を売っていないで早く寮に戻りたまえ」
 隣から冷たい声でスネイプが遮った。ハーマイオニーは眉をひそめ、不服そうな表情をした。
「また後でね、ハーマイオニー。お休みなさい」
 シャーロットが穏やかにそう言うと、ハーマイオニーはニコッと笑顔を作り「お休みなさい!」と告げてふたりの少年のところへ戻っていった。シャーロットも席を立とうとすると、スネイプがいつもの表情でこちらを見下ろしていた。
「何故、グレンジャーとすでに知り合いなのかね?」
「図書館で一緒になったんです。彼女、とても優秀な生徒でしょう?」
「自身が優秀だと逆上せあがっているうちは、真に優秀な生徒とは言えぬ」
「他と比較して優れているなら、素直にそう認識してもかまわないでしょう」
 口ならいくらでも回る。スネイプは遠ざかるハリーに視線を移した。
「……確かにその『他』が問題なのだ。あのポッターもウィーズリーもまったくなっとらん……」
 シャーロットもじっと視界から消えるハリーを見つめた。
「君は既にそれをご存知のようにお見受けするがね」
 前年度の最後の宴会で彼らに接触したことが、やっぱりばれていたらしい。シャーロットは肩をすくめただけで答えなかった。
「セブルス、シャーロット」
 振り返ると、背後にダンブルドアが立っていた。その後ろにはルーピンもいて、曖昧な笑みを浮かべている。
「話があるのじゃ。校長室まで来てくれんか」






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