2.魔法省大臣との面談

 シャーロットはダンブルドアと連れ立ってホグズミードへと向かった。夏休みになってからシャーロットも何度かホグズミードに出かけていたが、不思議なことにホグズミードは五十年前から雰囲気が変わっていないのだった。
「今となっては、ホグズミード村が英国で唯一の魔法族の村となってしまった。魔法界はどんどん狭くなっているの」
 ダンブルドアは寂しそうに言ったが、シャーロットはホグワーツが存在する限りホグズミードはなくならないだろうと思った。
「それにしては、活気がありますよね」
「うむ。魔法省の取り組みで近年『魔法村起こし』が行われているからのう。コーネリウスも色々頑張っているのだよ」
 コーネリウス・ファッジ。現在の魔法省大臣であり、これから会いに行く相手だ。
「大臣とは、どちらで?」
「君も馴染み深いだろう、『三本の箒』じゃ」
 ダンブルドアとシャーロットは真っ直ぐに「三本の箒」へと向かった。
「おお、コーネリウス。わざわざすまんの」
 中に入ると、すでに待ち合わせの相手はカウンターにいたようだった。小柄で、でっぷりとした体格の男が、こちらを見た。
 ファッジは細嶋のスーツを着込んでいた。目の肥えたシャーロットには、それが最高級のものであることがわかった。恐らく、他のものもそうなのであろうが──如何せん、組み合わせがひどかった。黄緑色の山高帽、黄金色のネクタイ、先の尖ったブルーのブーツ。はっきり言って、目に痛い。シャーロットは瞳をパチパチさせた。
「アルバス、本当に参ったよ──いかにしてやつが脱獄したか、知りたいのはこっちのほうだというのに──全く、小うるさい国際魔法戦士連盟のやつらときたら──」
「見たところ、君には少しのラム酒が必要じゃの──ところで、彼女がシャーロット・ブラックじゃ」
 そこでファッジはダンブルドアの後ろに隠れていたシャーロットを初めてきちんと見た。シャーロットはできるだけファッジに悪印象を与えないよう、いつもより三割増しくらいの微笑をつくった。 
「初めまして、大臣閣下」
「君が──ああ、確かに似ている──その瞳!」
 ファッジは苦み潰した表情だ。
 しかしシャーロットは複雑だった。あの指名手配のビラの男はひどく汚らしく、がりがりに痩せていて、まるでヴァンパイアのような有様だった。そんな男に似てると言われても、正直嬉しくない。
「ブラックもかつては笑顔の似合うハンサムな青年だった」
 言われて、パブの壁に貼ってあるビラをもう一度よく観察してみる。
 ──よく見てみると、確かに、瞳だけはひどく綺麗だ。しぶしぶながらシャーロットは認めた。自分と同じ、灰色の瞳。しかし彼の瞳は透き通っているのに暗く、虚ろだった。
 席を移動して、三人はカウンター近くのテーブルに座り直した。ファッジは赤い実のラム酒を、ダンブルドアはバタービールを、シャーロットはギリーウォーターをそれぞれ頼んだ。
「さて──」
 頼んだものが運ばれてくると、ファッジが羊皮紙を取り出して、シャーロットに向き直った。
「わかりきったことだが、一応の為、確認を取らなければいけない。シャーロット・ブラック、君は、今までにシリウス・ブラックと会ったこと、あるいは会話したことがあるかね?」
「いいえ、一度も」
「姿を見たことは?」
「手配書きだけでしかありません」
「シリウス・ブラックと思しき人物から接触されたことは?」
「ありません。あんな浮浪者みたいな格好の人間とは関わり合いたくない性分なので」
 ファッジは満足そうに頷いた。
「よし、よし。これでなくては──」
 それからさらにいくつか質問をされたが、大したことではなかった。一通り問答を終えると、ファッジは証人としてダンブルドアにサインを求め、ダンブルドアは快くそれに応じた。
「結構、結構。私も、君がブラック――シリウス・ブラックと関わっているなんて思ってやしないのだが、一部そういうのにうるさい連中がいてね。ああ、万が一ブラックが接触してくるようなことがあったら、身柄を捕獲してすぐに連絡してくれると嬉しいのだが」
「わかりましたわ、大臣」
 にっこり頷くと、ファッジもにこにこと笑みを返した。
「ところで、スクリムジョールから聞いたが、本当に『闇祓い』になる気はないのかね?奴さん、ものすごく残念がっておったぞ。私としても君のような美人が魔法省の花形の局にやってきてくれると嬉しいのだかね」
「まあ、そんな」
「気が変わったらいつでも言っておくれ」
 そんな軽口を叩いていたファッジだったが、ダンブルドアからちらりと視線を向けられると、ゴホンと咳払いして口調を変えた。
「──では、例の件についてだが、アルバス」
 ぐびっとラム酒を一口飲み干してから、ファッジはダンブルドアに向き直った。自分がいてもいいのかシャーロットは視線で尋ねたが、ダンブルドアもファッジも気にする様子はなかった。残り少なくってきたギリーウォーターのグラスに口を付け、様子を窺う。
「承知してくれるな?」
「諸手を挙げては賛同しかねるが……仕方あるまいの」
「私だって本意ではない──しかしブラックからハリー・ポッターを守るには、やはりディメンターの手助けが必要だ」
「ディメンターですって!?」
 シャーロットは思わず話に割り込んだ。ディメンター、吸魂鬼は、最悪の生き物のひとつだ。普段はアズカバンの看守の仕事のみを請け負っている。シャーロットはかつて、魔法省の特訓の一環としてアズカバンに渡ったことがあり、ディメンターを近くに見る機会があった。あの時の、全ての幸福感を奪われるような、寒気。それはけっして再びお目にかかりたいものではなかった。しかし、そのディメンターの助けを借りるということは、つまり──。
「まさか、アルバス……」
「君の推測通りじゃ。今年はシリウス・ブラックが捕まるまで、ディメンターがホグワーツの警備に当たることになった」
「ミス・ブラック、わかってくれたまえ。彼はハリー・ポッターを狙っているんだ。例のあの人を倒した彼を。彼がいなくなればあの人の勢力が戻るんだと思っているんだろう。もちろん、魔法省も全力でブラックを探しているが、新学期までにブラックが見つからなかった場合は──」
 ファッジはとても疲れた表情になった。
「コーネリウス、ほれ、もう一杯飲むとよい」
「いや……残念だが、もうそろそろ戻らなくては。君の許可ももらえたことだし……」
 ファッジはよろめきながら席を立った。
「ミス・ブラック。君も、気をつけてくれたまえ。恐らく、まだ君の存在をブラックは知らんと思うが……」
「シャーロットでけっこうです。私のことならご心配なく──それより大臣のほうこそ、お疲れのようですが」
「ああ、あんまり大丈夫じゃないかもしれんが、何とか」
「コーネリウス、無理はしてくれるな」
 ダンブルドアも心配そうに声をかけた。
 「三本の箒」を出てすぐに、ファッジは「姿くらまし」して魔法省へと戻っていった。シャーロットとダンブルドアは、無言でそれを見送った。
「何だか、大変なことになってきましたね」
 ぽつりとシャーロットが呟くと、ダンブルドアも頷いた。
「そうじゃな。……時に、シャーロット。ひとつ頼まれてくれんかね?」
「……?何でしょう」
 その頼まれ事とは、学期始めのホグワーツ特急に同乗してくれないか、というものだった。





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