10.魔法省の取り調べ

 翌日、シャーロットは制服姿で校内を散策することにした。あと二週間もすれば夏休みなのだ――できればその前にハリー・ポッターと接触を図りたい。屋敷しもべ妖精が用意した食事を軽くつまみ、朝の大広間に向かうべく支度をすませる。もともと卒業したての身、姿見に映った自分はいささか大人っぽいけれども十分生徒に見えるだろうシャーロットは思った。
「さて、と」
 準備万端、自室の扉を開けようとしてシャーロットは動きを止めた。
 ――人の気配。足音からして――男だ。
 どうやら予定は修正しなくてはならないらしい。シャーロットは諦めをつけ、扉を開けた。
「ダンブルドアがお呼びだ」
 やはりそこに立っていたのはスネイプだった。細い体にローブを巻き付け、偉そうにこっちを見下ろしている。
「……大変ね、あなたも」
 同情の眼差しを向けると、スネイプは何も言わず踵を返した。相変わらず愛想がない――というよりは妙に敵愾心をもたれている気がする。何故だろう?自分がリドルと関係があるからだろうか、それともブラック家に怨みがあるのだろうか。まあ、出会った時にはちょっとした皮肉の応酬をしたけれども、あんなもの可愛いものだ――。
 そんなことを考えながらスネイプの後についていくと、校長室に辿り着いた。
「魔法省の役人がお待ちだ。くれぐれも粗相のないように――レモン・キャンデー!」
 大真面目に合言葉を告げるスネイプがどうにもミスマッチで、くすりと笑うとギロリと睨まれた。
「おお、セブルス、シャーロット。忙しいところすまぬのう」
 扉をノックする前にダンブルドアの声が飛んできた。ふたりが校長室に入ると、そこには見知らぬ魔法使いが立っていた。ひとりはかっちりと頭を固め、隙のなさそうな面持ちに眼鏡をかけた高齢の魔女、もうひとりは白髪交じりの、これまた鋭そうな目つきの魔法使いだった。
「まさか、本当にこんなことが……」
 シャーロットの姿を見るなり息を呑んだのは、かっちりとした魔女の方だった。その声に何処となく覚えがあるような気がして、シャーロットは首を傾げた。
「あなた、何処かで――?」
 すると魔女はカツカツとシャーロットに歩み寄り、一文字に結ばれた唇を綻ばせた。その表情は、ひょっとして……。
「あなた……ミネルバ・マクゴナガル?」
「半世紀もの年月を経ても、わかるものなのですね」
 魔女は否定しなかった。シャーロットは驚きを隠さなかった。目の前の魔女は、一学年上の上級生、あのミネルバ・マクゴナガルだ。
「やっぱりあのミス・マクゴナガルなのね?グリフィンドールで監督生で主席だった……あのミス・マクゴナガル?」
「ええ。あなたのことはよく覚えていますよ、シャーロット・ブラック。あなたがスリザリンのクィディッチ・チームにいた時は負けっぱなしでしたから」
 ふたりは会話を交わしながら握手を交わした。
「――それでは君も彼女が紛れもないシャーロット・ブラック本人だと、そう言うのだね?」
「ええ、間違いありません」
「ふむ……」
 白髪混じりの魔法使いが、訝しげにシャーロットの顔を覗き込んだ。
「しかしどうして彼女が闇の帝王の計略により送りこまれたスパイではないと、そう言い切れるのだ?ダンブルドア」
「報告書に書いたことを読んでもなお、疑問かね?」
「彼女が五十年前、闇祓い志望だったというそれだけを根拠にそう言うのか?直接彼女のことを知っているからといっても、その思想まで把握できてはいないだろう」
「とにかく、ルーファス。まずは彼女に挨拶をしたらどうだね?そして君が直接彼女と話せばよかろう」
 ――察するに、この男は魔法省からきた者なのだろう。ダンブルドアへのもの言いからすると、かなり高い地位にいる人間だと思われる。そして隙のない立ち姿、動作、その眼。恐らく――彼は「闇祓い」だ。
「シャーロット、紹介が遅れてすまぬ。彼は魔法省闇祓い局局長、ルーファス・スクリムジョールだ」
 予想は大当たりだった。スクリムジョールはシャーロットに向き直り、簡潔に言った。
「スクリムジョールだ。魔法省から君を取り調べるため派遣された」
「ご存じのことと思いますが、私はシャーロット・ブラックと申します。以後お見知りおきを」
 微笑んでスクリムジョールの顔を見上げると、彼は胡散臭そうな目でこちらを凝視していた。視線を送られるのは慣れているが、この手のそれはあまり気分がいいものではない。また隣のスネイプが冷笑のようなものを浮かべているのも気に食わなかった。
「――それで?どうぞ、なんなりとご質問くださいな。ご期待に添える回答ができるかどうかは保証しかねますけれど」
「まず、本人確認をさせてもらう。そこにかけたまえ」
 校長室のテーブルと椅子にそれぞれが陣取り、シャーロットへの取り調べが始まった。生年月日に始まり、杖の確認、家族構成、学生時代の選択授業など、五十年を経ても残されていたデータと照らし合わせているようだった。また当時の学生でなければわからないような質問もダンブルドアから訊かれ、それに答えるとマクゴナガルがその事実を裏付けた。ちなみにスネイプはその間一言も発せず無表情で紅茶をすすっていた。
「ふむ、シャーロット・ブラック本人であることは確かに間違いがないようだな」
「だからダンブルドアも私も始めからそう言っているでしょう」
 渋々納得したスクリムジョールに、マクゴナガルがぴしゃりと言った。
「まあ、第三者から見てもそうだとはっきりわかったのでよいではないか。セブルス、君も納得したかね?」
「――昨日よりは」
 ブラック家の金庫までついてきたのに何を今更言っているのか。この男、よほど疑り深い質らしい。
「だが、だからと言って君が闇の帝王の陣営に属しているかどうかはわからない。報告書によると、随分と親しい仲だったそうではないか」
 スクリムジョールの慎重さはシャーロットの目に好ましく映った。もし自分が彼の立場でも同じような態度をとるだろう。そして確実に真偽を確かめたいと考えるだろう。とすれば用いられる手段は……。
「セブルス、例のものを」
 ダンブルドアが告げると、スネイプはローブの中から液体の入った小瓶を取り出した。






prev next
Top

bkm


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -