Don't Cry 2 あれから焔椎真は毎日毎日子犬を見つけた場所に行って、家から持ってきたおやつやご飯の残りを子犬にあげていた。 けれど数日同じことを繰り返しているとさすがに焔椎真の親も気がついたみたいで、不審な行動をとる息子に眉を顰めだして。 そうなるともう限界だと思ったのか、今度は学校の給食を残して家からこっそり持ってきたビニール袋に包み、やっぱり子犬にあげていた。 「ホツマ、給食はちゃんと食べないと」 「でも家からご飯持ってこれないし、もう給食しかあげられる物がないんだ」 「じゃあおれの給食あげるから少しは食べるんだ」 「駄目だ。シュウセイには迷惑かけられない。俺がちゃんと責任もって育てなきゃ」 「ホツマ……」 日に日に給食を残す量が増えていくので、すぐ後に控えた体育なんかでは力を発揮できずやつれていくのは疑いようもなかった。 愁生から見てもかなり焔椎真の状態は悪いと思うし、教師にも大丈夫かと問われていたから、なんとか手助けしてやれたらと持ち出した案だったのだが、焔椎真は頑なにそれを拒んだ。 しかも最後には「お前は少食なんだからちゃんと食べてくれ」と気を遣われしまって、こんなことならもう少し食べておくべきだったと後悔したが今更どうしようもない。 * * * * * 「元気にしてたか?」 現在はスーパーから貰ってきた段ボールにタオルを敷いてやり、子犬を入れて橋の下に置いてあるので雨風も凌げる。 当然だが子犬を世話してることを親に見つかるわけにもいかず獣医に怪我を見せられないから、焔椎真が持ってきた人間用の消毒薬や塗り薬で治るように祈るしかないのが現状だ。 「なあ、これでちゃんと治ると思うか?」 「さあ。でも無いよりましなんじゃないかな」 「うん、そうだよな」 焔椎真は子犬が心配だから毎日毎日学校帰りには子犬の所に行っていて、愁生は焔椎真が心配だから毎日毎日焔椎真の後について子犬を見に行っている。 今では子犬も献身的に世話してくれる焔椎真に懐いたみたいで、抱っこされても指を噛むこともないし引っ掻いたりもしない。 愁生に対してはまだ多少の警戒があるみたいだが。 「こいつ、歩けそうにないんだ。やっぱり怪我が原因かな……」 「多分」 「でも最近は懐いてくれてさ、歩けないのに俺の後をついてこようとしたり、帰る時間になったら甘えてくるんだ!」 「うん、知ってるよ」 一緒に愁生もこの場所に来てるから子犬が以前よりも格段に焔椎真に懐いているのは分かっているが、どうしても言いたいらしい。 すごく嬉しくて楽しくてご機嫌なんだと、星をちりばめたみたいな瞳と全身が訴えている。 だからこそそんな焔椎真を見るたびに愁生は自分がひどく汚らわしいもののように思えてきた。 おそらくこの子犬は長くは生きられないだろう。 焔椎真はまだ気づいていないようだが、日を追うごとに本当に少しずつ子犬は弱ってきている。 それは食べる量であったり遊んだ後の疲れ方だったり。 焔椎真と違い、一歩引いた場所にいて客観的に見ているからこそ愁生には分かるのだ。 おそらく近いうちに子犬は死を迎えるだろう。 それほど大事なことを焔椎真には何一つ告げられずにいる。 「神の声」が暴走した日をきっかけに焔椎真の周りからは一人、また一人と友達がいなくなり、目も合わせてもらえない現実。 自分は本当にこの世界に存在しているのかと悲しみ泣いていた焔椎真が新たに見つけた自分を認識してくれる存在。 それゆえに、焔椎真は自分を顧みずに子犬に尽くしている。 「シュウセイ、ありがとな」 「何が?」 「こいつのこと誰にも内緒にしてくれたし、俺に面倒みていいって言ってくれたからさ、だからありがとな!」 「……うん」 無邪気に大輪のひまわりみたいな笑顔でお礼を言われたら困ってしまう。 きっと別れは近くに迫っているのだから、いずれ焔椎真の悲しむ顔を見なければならないと思うと、愁生はひどく憂鬱だった。 だけど視界の端にいる子犬はと言うと焔椎真の手の指をペロペロと舐めていたし、焔椎真は焔椎真でくすぐったそうに、それでも満面の笑みで楽しそうに笑っている。 愁生にしてみればそれが少し不満だったが表情には出さずに一人と一匹の傍で笑っていた。 2010/12/8 |