少女Aの憧れと疑問






※第三者視点です。







この学園に新入生として入ってきて憧れた人、碓氷愁生先輩。
一つ年上の先輩で年齢もそんなに変わらないのに風紀委員長で弓道部員としても優秀な成績を修めてて、他にも多くの委員を掛け持ちする有名人。
なのに人柄も良く穏やかだからいつも周りにはたくさんの人が集まってる。
ただでさえ碓氷先輩の周りは人だかりなのに、皆を押し退ける勇気も何もない私なんて、碓氷先輩に一生存在を知られる事もないだろう。
もちろん遠くから見てるだけでいいなんて事は思ってないし、できれば視界の中に入れたら嬉しい。
そんなささやかな願いが変わったのは何気ないある日を境にだった。








* * * * *

その日私はクラスに遅くまで残って日直の仕事である日誌を書いていた。
男子の当番はあいにく部活の試合直前らしく半ば押しつけられた感じだったが、まあ、良いかなんて考えて書き終わった日誌を担任の先生がいる職員室にまで持っていった。
先生に「遅かったな」なんて言われつつも適当に笑って、職員室からの帰りになんとなく廊下を見渡してたけど、どうやら時間が遅いから生徒なんて誰一人見当たらない。
遠くで運動部が声を出してるのは聞こえるけど。
辺りも段々暗くなってきたし、カバンを持ったらさっさと帰ろうと焦っていた私は、クラスのドアを勢いよく開け、目の前に広がる光景に面食らってしまった。




「「……え?」」




ビックリした私と同様に、向こうも私が入ってくるなんて予想してなかったから驚いたみたいで、同じクラスの蓮城くんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして私と同じ声を上げた。
教室にいたのは不良だとか荒くれ者だとか皆から言われてる蓮城くんともう一人、私の憧れる碓氷先輩だった。

「お前、帰ったんじゃなかったのか?」
「私、日直だから……」
「そ、そうか」

私から見ると蓮城くんはあまりクラスに馴染んでないみたいだし、クラスの皆も金髪で喧嘩沙汰が多く、いくつもピアスを開けてる蓮城くんとは関わろうとしない。
それは私も同じで、まともに喋ったのは多分今日が初めてかもしれない。

「焔椎真、この子は?」
「ああ、こいつは俺のクラスメイトで……」
「すみません! それじゃ失礼します!」
「あ、おいっ!」

蓮城くんが私を碓氷先輩に紹介しようとしたけど、教室に入るその一瞬に見てしまった光景が一気に思い出されて、二人から逃げるようにして出てきてしまった。


そう。
ドアを開ける直前に見たのは寄り添い見つめ合った二人の柔らかな、なんとも言えない空気だった。
あの二人にとって神聖とも言える空間をぶち壊したのは紛れもない私だ。
だから申し訳なくて、それに今見たものの整理がどうしてもつかなくて逃げ出してしまった。

入学してきた頃からの憧れの碓氷先輩、あの人のあんなに幸せそうで狂おしいまでの愛しさに彩られた顔、今まで見た事なかった。


でも私は知っていたんじゃないだろうか。


人柄も良くて誰に対しても穏やかな碓氷先輩は誰に対しても平等というよりも、結局のところ誰に対しても心を許していなかったんじゃないかと。
柔和な笑みの下には鋭利で、永久凍土みたいな感情が宿っていると。
だから今さっき見た、幸福をその手に総て集めたみたいな、目の前の人間をとても愛しく思っているかのような碓氷先輩の表情に私の脳内はショートしてしまった。
そんな顔、今まで一度も見た事なかったのに。







碓氷先輩、教えて下さい。
あなたにそんな顔をさせているのは、傍にいるのが蓮城くんだからですか?
あなたに憧れる、あなたを好きだと思う多くの人達の存在は知っていますか?





ねえ、碓氷先輩?











続きも考えてたし、ちゃんとこの話のケリをつけるはずが力尽きた……。

2010/6/20

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