懺悔






見た目の華美さや態度から焔椎真はよく周りに絡まれ、怪我をして帰ってくる事がある。
たとえ手を出してきた相手を理不尽に思っても憎んだり自制心が飛べば「神の声」で人を危険に晒してしまうため反撃もせずに殴られたままでいる。
そんな自らを傷つける焔椎真の行動は、愁生にとっては悩みの種なのだ。
焔椎真が辛い思いをするのは嫌だし、傷を負って帰ってくるのを見るのも辛いから喧嘩はご法度だと何度も言っているのに、本人は「大丈夫だって。大したことない」としれっとしている。
しかし、ごく稀に焔椎真の精神状態がひどく危うくなる時があって、今日の焔椎真がまさにそうなのだ。





食事を終えた後、少し九十九と話をしていた愁生だが、気づけば焔椎真はいなくてなんとなく嫌な予感がした。
夕飯を食べている時も他の人が見たら『いつもの焔椎真』にしか見えなかったかもしれないが、愁生は夕月や九十九達と違って、焔椎真と過ごしてきた期間が圧倒的に長い。
それは今世だけでなく生まれ変わる前も。

(しまった……)

雰囲気がいつもと異なっていたから夕飯時も皆にけどられないように焔椎真を見ていたし、夕飯を食べ終えた直後は焔椎真は夕月と今日のメインディッシュの感想を述べ合っていた。
だからまだ少しはここにいるのかと思って話しかけてきた九十九と二言、三言言葉を交わしていたのだ。
けれど話の合間にふと視線を焔椎真がいた方向に向ければ、今まで夕月と話していた当の本人がいないではないか。

「すまない、九十九っ」
「うん。分かった」

九十九には悪いと思いつつも話を早々に切り上げれば事情を察してくれたのかあっさりと頷いてくれたので、内心で礼を述べつつリビングを出た。

(まったくもう……)

悪態をつきつつも本心では焔椎真が気になって仕方ない。
一秒でも早く焔椎真の元へ行けるのなら息が切れるのや汗をかく事なんか本気でどうでもよくて、慌てて廊下を走り愁生はパートナーの部屋へと向かった。

「焔椎真!」
「…………愁生」

バタンと大きな音をたてて開けたドアの先、部屋の照明も点けず真っ暗な中に焔椎真は立ち尽くしていた。
カーテンを開けて。

「焔椎真、どうした?」
「なんかカーテン開けても星が綺麗に見えないなと思ってさ」
「そうか」

できるだけ柔らかい声で尋ねれば、星が見れなかった焔椎真のがっかりした返事が返ってきた。
確かに今日の夜空を見上げればお世辞にも綺麗に星が見えるとは言い難い。
厚い雲である程度覆われていて星はぽつぽつとしか浮かんでいない。

「今日は天気が悪いだけだから晴れた日にはまた星が見られるさ。それまで待とう」
「そうだな」

口調は子ども相手の言い方だが致し方ない。
精神を安定させる方が最優先事項なのだから。
焔椎真も首を縦に振ったが、やっぱり雰囲気はさっきまでと変わってなくて。

「焔椎真、大丈……」
「なあ、愁生。生きてるって感じたいんだ」

愁生が気遣って大丈夫かと焔椎真に言いかけたが、知ってか知らずか、ぽつりと焔椎真はそんな事を言い出した。
生きてると感じたいと。
『証』が欲しいと。
焔椎真は本当に稀にだが発作を起こしたみたいにして生きてる事を実感したがり、ある方法で満たそうとする。
その方法がはたして良いのか悪いのかは別にして焔椎真はそれを求め、愁生は毎回求めに応える。
今回も焔椎真が次に何を言いだすかは分かっていて、今までの経緯から予想と寸分も違わないだろう事は明白だ。





「抱いてくれ」









* * * * *



「はっ、はあ……っ、はあっ」



ベッドサイドに置いたライトの微かな明かりだけを頼りに、今夜だけで何度繋がっただろうか。
焔椎真の中に愁生の硬度を増したものを入れようとする時も、内部を解しきれていないのに焔椎真は急かした。
このまま入れても痛いだけだと諭しても「いいから早く!」と半ば叫ぶようにして一刻も早く繋がる事を望んだ焔椎真。
精神不安定状態で危なっかしい焔椎真に痛みを与えて深く繋がってセックスの事以外考えられなくさせて、そうやって生きてるのだと実感させるのはこれまでも愁生だけの役割だったし、他の誰にも譲るつもりはない。
だからそれはいいのだ。
こうする事で焔椎真が落ち着き気が済むのなら。
ちゃんと生きてるのだと実感してくれるのなら。
この行為の相手に自分を選んでくれるのなら。
もちろん焔椎真の我が儘に無理に付き合わされてる、なんて思った事もない。
愁生にとっても生きる意味である焔椎真に求められる事で、交わる事で生きてるんだと実感してるのだからお互い様なのだ。



でもただ一つ。
一つだけ。





「あっ、はあ……、すまない……、ほんと、に……」



解しきっていないのに愁生のものを中に入れたのだから、焔椎真の内部は切れていて、流れた血が微かにシーツを汚している。
だから少しでもたくさん快感を得られるように細心の注意を払って気持ち良くさせている最中、焔椎真は熱に浮かされたみたいに口にした。


「すま、ない……、ほんとに……すまなかった、ごめん」


今回のように発作を起こしてる時に焔椎真は毎回謝罪の言葉を述べている。
自分と関わったが故に怖い思いをさせた人達への謝罪。
幼い頃の友達や「神の声」の能力のせいで恐がらせてしまった人達へと降り注ぐ赦しの言葉。
愁生としては焔椎真はわざと恐がらせようとしたわけじゃないし、人間が「大好き」な焔椎真に手の平を返したのは去っていった人間達の方だ。
焔椎真には焔椎真の考えがあるのだから安易に謝罪しなくていいんだぞとも言えなくて、代わりに愁生は焔椎真の背中に腕を回した。



「赦し……てくれ、ご、めん」



果てなく続く懺悔の言葉に負けないように、愁生はより強い力で焔椎真を抱きしめる。


罪背負う者を赦す聖職者を気取りたいわけでもないし、これで今何かが解決するわけでもないというのは十分理解している。
けれど自分達が良ければそれでいいのだ、結局は。










ビッチ焔椎真とかいかがですか?(誰に聞いている)

2010/5/24




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -