ずっと一緒に2 ※8万HITリクエスト2 「愁♀焔の結婚話。未来でも学生結婚でも」 個室になった部屋を出た所の壁に少し背をもたれさせるようにして愁生は立っているが、焔椎真が来たのを見計らうと綺麗だが冷たい雰囲気を宿した笑みを浮かべて焔椎真の手を取り歩きだした。 「しゅ、愁生!」 ぐいぐいと引かれたために愁生の後ろを前のめりになりながらついていく焔椎真は、不穏な笑みに背筋が冷えて焦ったような声を出したが、張本人は立ち止まろうとはしない。 (こういう時の愁生って怖いんだよなあ……) 長い付き合いから反論しても無駄だと知っているので仕方なく足を進めていくと、ほどなくして人の気配がしない通路へと出た。 完全に死角となっているその場所は、どうやら店員からも客からも見えないらしい。 「なあ愁生、どうしたんだ? 呼び出したりして。何か用事があったんだろ?」 「……焔椎真、何だあれは」 「え? あれ?」 愁生が立ち止まったのでやっとさっきから気になっていたことを問い掛けた焔椎真だが、反対に質問返しをされてしまった。 さすがにこれには焔椎真も面食らうしかない。 皆のいるあの部屋で焔椎真に部屋の外の出るようにと、愁生の視線が言外に告げていたのは分かっていた。 だから何か言いたいことがあるんだと思って、今朝お互いに家を出る時交わした『いってらっしゃい』の挨拶以来の会話に嬉しさを感じているのすら脇に置いて本題に移したのに。 愁生の言う『あれ』の意味がさっぱり意味不明で首を傾げた焔椎真に愁生は「はあ……」とおおげさとも言える溜め息を零した。 「な、何だよ! 溜め息なんか吐いたりして」 「何だよじゃないだろ。さっき隣の奴に言い寄られてたじゃないか。しかも手まで触られて。一体あれは何なんだ」 「あ、あー……、わ、悪い」 どうやらさっきの一連の出来事を見られてたらしい。 別にやましい部分はないから堂々としていても問題はないのだが、こういう時の愁生がとても恐ろしいというのは経験上理解している。 「悪かったとは思ってる。でも別に何もないんだからな!」 「そうだろうな。そうでなきゃお前にじっくり聞くはめになってたからな」 ひいいっ!とできれば叫び声をあげたいのをなんとか焔椎真は我慢した。 目の前にいる愁生に対して隠し事をすること自体、到底無理な話なのかもしれない。 ただ、焔椎真自身が真っ直ぐで馬鹿正直な性格故に隠し事をしても顔に出てしまうという、典型的な嘘はつけないタイプの人間だからそんなものを気にする必要は欠片もないのかもしれないが。 「っていうか、よく手を触られたって分かったな」 「あのなあ、そんなものお前を見てれば分かるよ」 「そうかよ。なあ愁生、俺もう帰りたいんだけどお前はまだいるのか?」 「帰りたい?」 「ああ。俺はやっぱりこういうのは苦手だ。付き合いだとしてもな」 今すぐ帰りたい。 隣の奴には手を触られたし、そもそも最初から乗り気じゃなかったのだ。 どうしてもと懇願されたから仕方なく来ただけ。 だからああいう顔を近付けられたりとか馴れ馴れしくされたりっていうのは正直されたくない。 だって大好きな人がもういるんだから。 「焔椎真が帰るならおれも帰るよ」 「いいのか? お前も付き合いがあるんだろ?」 「いいんだ。それよりもおれ達の関係、皆にバラして帰ろうか」 「え? 本気かよ」 「ああ、そうしたらあいつももうお前に手を出さないだろうからな」 さすがに大学ですら誰にも言っていないのだから正直に愁生との関係を話すのは恥ずかしすぎる。 そのための心の準備もできていないのだから。 でも愁生が言いたいなら別にいいか、なんて楽天的に考えて、焔椎真はこくりと頷いた。 2011/1/20 |