ずっと一緒に1






※8万HITリクエスト2
「愁♀焔の結婚話。未来でも学生結婚でも」








「はあ、はあ……」



大学の講義を先ほど終えた焔椎真はとても急いでいた。
それもそのはず、今日は焔椎真の通う大学の女の数人と相手の大学の男数人で合同コンパをすることになっているからだ。
なのにこんな日に限って教授の話が長く講義の終了の時間が思った以上に遅くなってしまい、待ち合わせ場所に着くのはもしかしたらギリギリかもしれない。

(ヤバいよな、もう皆揃ってるだろうなあ)

幸い今日予約しているお店は駅の傍にあり、焔椎真の大学はその駅からほどなくの所にあるので、運動神経抜群の焔椎真が走ればものの数分だ。
全速力で走り抜ける人間を道行く人が気にも留めないでいるのをいいことに、スピードを更に上げればお店の前に見知った人がいるのが確認できた。
どうやらもう皆集まってるみたいだ。
ポケットから取り出した携帯電話の液晶画面に目を遣れば待ち合わせ時間の数分前で、なんとか間に合ったことにほっとする。
安堵のため胸を撫で下ろせば焔椎真を見つけた同じ大学の友人が「焔椎真、こっちこっちー!」と手を振って叫んでいる。
そしてその横には誰よりも身近で焔椎真の大好きな人がいて、こちらを優しげな瞳で見ていることに嬉しくなる。

「はあ、はあ、はあ……。待たせて、悪かった」

息を整えながらも遅れたことを率直に謝れば、友人は「あの教授ってたまに話が長くなるもんねー」だとか「こっちが無理に誘ったんだからいいよ」等と言って気遣ってくれる。
そもそも合同コンパなんて焔椎真は生まれてから一度も経験したことがなかった。
幼い頃から大好きな人がいるのだから合同コンパなんてする意味がなく、今までそういう誘いは全て断っていたし、そうでなくてもまるっきり興味がないのだ。
今回だって人数合わせのために友人にどうしても来てほしいと懇願されたからで、それがなければ行く気なんて全く起きなかった。
ただ、今焔椎真の目の前で柔らかな笑顔を向けてくれている人間も焔椎真が誘われたのと同じ日に、大学の仲間の付き合いで今日の合同コンパに誘われたんだと明かされ、お互いが行くならじゃあ良いかと考えて焔椎真も約束をオッケーしたのだ。
そうじゃなかったら絶対に来なかった。










「焔椎真ちゃんって、可愛いよね」
「え?」

なんとなく使い古したナンパをする際の常套句で声をかけてきたのは、焔椎真の横に座っている相手の大学の男だった。

「……」

いやに馴れ馴れしい態度で身体を寄せてくる男にうんざりして焔椎真は眉を顰めたが、そんな様子さえこの男は理解していないらしい。
しかもあろうことかテーブルの下、身体の横に置いた手にそっと手を重ねてきた。

「お、おいっ」

ぞっと背筋が凍る感覚に反射的に手を引いてしまった。
なのにその男はへらへらとした笑いを止めもせず、手を払われたことさえも特に気にしていないようだ。
「あ、驚いた? ごめんねー?」なんて謝ってきてはいるが、全く誠意すら感じられない言い方にも無性に腹が立つ。
はっきりいって嫌いな部類の人間だ、それもものすごーく嫌いな部類に入る。
生理的に合わないと言っても差し支えないかもしれない。

(ああ、鬱陶しい……)

まだぺらぺらと話しかけてくる相手の男にいい加減声を荒げそうになるのをなんとか押さえ込む。
だってそうしないと場の空気が悪くなるし、それ以上に絶対に迷惑がかかるから。
焔椎真の目の前の席に座ったその絶対に迷惑かけたくない大好きな相手の方を見ようとした矢先だった。


「焔椎真」


雰囲気を壊さない控えめな声だった。
でもどんなに小さくても他の誰とも混同なんてしたりしないし、柔らかくて穏やかな心地好い声は聞くだけでいつも安心をもたらしてくれる。


「愁生」


焔椎真は無意識に名前を呼んでいた。
この世のどんな人間よりも愛していて、同じようにこの世の誰よりも焔椎真を愛してくれるその男の名前を。
お互いの名前を呼び合って、そしてほんの一瞬の視線の交差。
たったそれだけで愁生の心は難なく読み取れる。

「ちょっとごめん」

言って部屋を出た愁生は、出る寸前にも焔椎真の方をちらりと見た。
言葉にせずとも愁生の言いたいことはちゃんと分かる。
だから焔椎真は愁生を追いかけるようにして部屋を出た。














2011/1/18





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