初雪の白







朝起きてまず最初の愁生の感想は寒いな、だった。
ここ最近はテレビの天気予報でも気温が格段と下がるからあたたかくするようにと言っていたのをふと思い出していたら、バタバタと廊下を誰かが走る音が聞こえてくるではないか。
遠かった足音が段々と近づいてくるのにじっと耳を傾けていたら、バタンッと一際大きな音を立てて自室のドアが開いた。

「焔椎真」

実は足音がした時からその足音の持ち主は焔椎真だと分かっていた。
幼なじみだというのもあるし、昔からの相棒でもある焔椎真の気配を愁生が感じ取れないわけはない。
少し呆れ気味に名前を呼んでみたが何やら興奮しているらしい焔椎真にはそんな些細なものはどうでもいいようだ。

「なあなあ、愁生! ほら窓の外見てみろって!」
「は?」
「ほら早く!」
「ちょ……、おい」

いきなり来たかと思えばとにかく窓の外を見せたいらしい焔椎真は愁生の背中を軽く押して窓の傍まで押していく。
こうなると焔椎真に今理由を聞いても無駄だというのは長年の経験から把握しているので、訝しがりながらも愁生は窓の前に立った。

「カーテン開けろって」
「カーテン? ああ、分かったよ」

焔椎真が言うように閉まり切った厚手のカーテンを両手で左右に開けたら、目の前には一面の白。
東京の都心部でこの光景を白銀世界というには多少無理があるかもしれないが、それでもその白さに目を奪われた。

「すげえだろ? 今日は初雪だってよ」
「そうか。どうりで寒いわけだな」
「寒いか? それよりも雪合戦とかできねぇかな?」
「それはさすがに無理だろ」

確かに辺りは真っ白だが、だからといって雪合戦ができるほどだとは思えない。
ちらちら降る雪もこの量ではそんなに積もらずに解けてしまうだろう。

「ちぇっ、雪合戦とかしたら楽しそうだと思ったんだけどなあ」
「天候ばかりは仕方ないさ。それよりも雪を見せるためにわざわざ走ってきたのか?」
「当ったり前じゃねーか! 愁生と一緒に見たかったんだからしょうがねえだろ」

何か問題でもあるのか?と言いたげに自信に満ちた焔椎真の行動や言動は裏や打算も何もなく、呆れるほどに真っ直ぐだ。
でもだからこそ愁生が何よりも好むものでもある。

「なあ、雪合戦できそうだったら愁生もやるか?」
「おれはいいよ。お前がはしゃいでるのを見てるだけで楽しいから」
「そうか。つまんねーな。一緒にやれば面白いのに」

たとえ雪合戦は一緒にできなくても、星を見る時のように窓辺に座ってひらひらと花びらのように降る雪を見ている時間は、雪合戦をする以上にかけがえのない大切なものなのだと愁生は思っている。

















2011/1/12





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