君には敵わない








自分の誕生日なんてものは昔から心底どうでもよかった。
祝われようが祝われまいが地球が回っている限り毎年一月五日はやってくるものだし、毎回の転生で必ず同じ月日に生まれることができるわけじゃない。
過去から現在と、廻る生命を繰り返す身なれば生まれ変わるたびに変わる誕生日に特別さを見つけることは難しい。
ただ今回の転生では『碓氷愁生』として生まれ、たまたま一月五日が誕生日だっただけのこと、それだけなのだ。


そうだ。
自分一人だけならば誕生日なんて心底どうでもよかったのだ。


でもそこに『蓮城焔椎真』が関わってしまえば、彼という一石を投じられてしまったらそうはいかない、昔から。










* * * * *


「なあなあ愁生、今日は何の日か知ってるか?」


このやりとりは決して今年だけのものではない。
わくわくといった感じを身体全体で表現し、キラキラした瞳を向けてくる焔椎真は、細部は違えど毎年同じような問い掛けをしてくる。

今日は何の日か分かるか、と。

なので同じように毎回こう答えるのだ。

「さあ、なんだったかな?」
「……えっ? 覚えてないのか?」

身体全体での表現もキラキラした瞳も、今まで浮かべていた全ての眩しいものを一気に萎ませて肩を落とした焔椎真。
逐一こちらの返答に一喜一憂して、くるくると変わる表情を見ているだけでも楽しい。
しかも毎年毎年同じ返し方をされてるとは全く気づいていないみたいだ。
素直で真っ直ぐで、おおらかで過ぎたことは気にしない焔椎真のそういう部分はとても好ましいと思うし、長所の一つだ。

「それで、結局今日は何の日なんだ?」
「ああ、そうだった。今日はな、愁生の誕生日なんだ!」
「……おれの?」
「そうそう! ……っていうか愁生はあんまり誕生日って興味ないのか?」
「どうしてだ?」

どうしたことか。
おかしい、今年はおかしい。
焔椎真の様子が変だ。
いつもならばお前の誕生日だと種明かしをしてくるから、ようやく自分の誕生日を思い出したというフリをしてれば良かった。
大事な日なんだから忘れんなよと毎回言われて、そして二人で祝っていたのに。
なんだかしょんぼりとした姿の焔椎真に毎年忘れたフリしてて、興味がないという素振りを見せてまずかったかなとは思う。
別に焔椎真を悲しませたいわけじゃないのに。

「焔椎真、あのな、」
「でも俺には愁生の誕生日は大事だから毎年ちゃんと祝いたいんだ。だからお前がどう思ってても俺は絶対祝うんだからな!」
「焔椎真……」
「ってなわけでこれプレゼントだ!」

今までがっくりしてたかと思えばもう浮上しているらしい。
いや、上辺だけかもしれない。
何やら自分だけで完結してしまっている焔椎真にそうじゃないんだと返そうとしたが、その前に胸に押しつけるようにしてプレゼントの袋を渡された。

「おっ、と」

でもプレゼントも見たいが今は誤解を解く方が先だ。

「あのな焔椎真、確かにおれは自分の誕生日ってあまり興味はないんだ。誕生日だけじゃなくてクリスマスとか、他のイベント事の時もそうだけど」
「やっぱりか」

また気分が下降しはじめた焔椎真だけど、完全に下降してしまう前に話を続ける。

「でも、お前に祝われるなら自分の誕生日も悪いものじゃないって思う。いや、そうじゃない。お前に祝われるから自分の誕生日が特別なものになるんだ」
「本当か!? じゃあさ、じゃあ来年も祝っていいよな? なっ? 愁生が嫌だって言っても勝手に祝うぞ!」
「ああ。嫌じゃないしお前にだったら祝ってほしい」
「やった!」

すごく嬉しいのだとさっきみたいに全身で表現した焔椎真を見ていると、こっちまで自然と気持ちは穏やかになれる。
きっと他の誰に祝われてもこんな気持ちには到底なれない。
目の前にいる焔椎真だけだ。
焔椎真だけが誕生日という日に価値を与えてくれる。
生まれてきて良かったのだと思わせてくれる唯一の存在なのだ。




ああ、いつだっておれは君には敵わない。














愁生、誕生日おめでとう!

2011/1/5





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