君へ捧げる予告状 2 ※8万HITリクエスト5 「怪盗臨也×お嬢様静雄♀」 名家である平和島家の後継ぎとしての勉強は早いうちからする方がいい。 だけどこんなに早くから帝王学を教え込まれるはめになるだなんて予想外で、臨也に出された問題を解きながら静雄は人生分からないものだなと溜め息を零した。 静雄の父親が当主の平和島家では何をするにしても決定権は父親にあるし、いずれ父親の後継者として当主となるにしても、それは父親が引退する時だと疑いもしなかったのに。 両親が不慮の事故で亡くなってから静雄は後継者として急ピッチで勉強を始めた。 これまではお嬢様として育てられいたが堅苦しいのが苦手な性格もあってか、そういう扱い方をされるのが面倒だと感じる日もあった。 だけどいきなり当主としての自覚をしなければならなくなるという環境の変化にどうしても身体も心もついていかなくなりそうだったある日、静雄の前に現れたのは家庭教師の折原臨也だった。 『はじめまして。これからあなたの家庭教師をする折原臨也です』 にっこりと柔らかく笑ったその男はいつからか静雄の心に入ってきた。 まずこの男は静雄を特別扱いしないのだ。 名前だって周りの者は『静雄様』だとか『当主様』だとか畏まった呼び方をしてくるが、この折原臨也という男は静雄のことを出会って間もない頃から『シズちゃん』という、他の者が聞いたら卒倒するようなニックネームをつけてきたのだ。 話し方も敬語ではなく、この男本来の喋り方で会話をしてくる。 しかもまだ静雄が当主ではなく望む望まないにかかわらずお嬢様として過ごしていた時みたいに接してきた。 けれど静雄は物心ついた時からお嬢様はお嬢様でも、深窓のお嬢様という部類には入らなかった。 これがかすりもしなかった。 何故かは今でも不明だが静雄の行使する力は周りが全く適わないほど圧倒的で、大の男すらあっさりと薙ぎ倒せたから護身術なんてものはほとんど習う必要がなかった。 しかも怒りの沸点が低く些細なことでキレやすい。 勉強もあまり好きではなく、弟の幽に比べるとその差は歴然で、静雄は明らかに劣っている自分よりもよくできた弟の幽を当主にすべきだと訴えていたが、幽には「当主には姉さんが」と言われてしまえば口をつぐむしかない。 さすがに後継者争いは醜いと静雄だって認識している。 怒らせたら強大な暴力を振るわれるんじゃないかという恐怖や高貴な身分ゆえに、周囲はほとんど関わり合いになるのを避け、その存在を疎ましく思う人間もいた。 いつもいつも孤独で寂しくて辛くて悲しかった。 だけど臨也だけは違っていたのだ。 仕えるべき人間の静雄を友達か何かのように接する臨也は、家庭教師として勉強を教えるだけじゃない。 静雄が無茶をして風邪をこじらせ、しかも隠していたら臨也がそれに気づいて怒ってくれた。 高飛車で自慢ばかりの名家でのパーティーに招待された時もだ。 静雄が行くのを躊躇っていたのを見計らい、「今回だけだよ。俺がなんとかしてあげる」と言って何をどうやったのかは知らないが、静雄が出席しなくても後で問題ないように処理してくれた。 平和島の名を貶めないように本来なら絶対に欠席は許されなかったパーティー。 あまりにも見事すぎたので何をしたのか臨也に聞いてみたが「ふふっ。内緒だよ」と顔の前に人差し指を立てて最後まで教えてくれなかったけれど、臨也にひどく感謝したのも確かだ。 家庭教師と雇い主なのに喧嘩もよくする。 些細なことから口論に発展したりもするが、なんだかんだで喧嘩さえも楽しく、はたから見ても二人は仲良くやっている。 臨也は静雄がまだ当主として生きる前の、融通のきいていた頃のように接してくれるのだ。 今となっては唯一の家族である弟の幽以外では臨也だけ。 そんな臨也に惹かれていくのに時間はさほどかからなかった。 いつしか恋心が芽生え、ずっと一緒にいたいと願い、でも身分が違うから共にいるのは不可能な話で。 静雄が奥手というのもあるが、それ以上に身分違いの恋は誰も認めてはくれないし、待つのは辛い現実だけだろう。 自分の気持ちを臨也に告げるのだって許されるはずがない。 最近では臨也のことで悩む時間ばかり増えていってしまう。 気がつけば臨也と静雄が出会って一年が過ぎていた。 2010/11/21 |