日常は大切に 2 ※8万HITリクエスト1 「愁焔で学園物」 普段どおりに登校して普段どおりに授業を受けていても、最近はなんだか妙な感じがする。 なんだか、なんていう曖昧な言い方になるのは自分の中でもこれといった原因が思い浮かばないからだ。 感覚だけで判断しているという状態かもしれない。 先日上級生に殴られた傷は、数日もすれば綺麗に治ってしまった。 こういう時は肉体の頑丈なツヴァイルトで良かったなんて焔椎真はしみじみ思っており、特段上級生に対しても負の感情は抱かなかった。 元々人間が好きだから結局のところ手痛い目に遭っても人間を憎んだり恨んだりできない性質なのだ。 だけど愁生は違った。 焔椎真は愁生を心配させないためか、怪我をしたいきさつを頑なに隠そうとしたから原因となった人間を愁生は独自に調べあげ、きっちり影でお礼をしてやったのだ。 大切で大切でたまらない焔椎真に怪我をさせた憎い者達に制裁を加えた愁生は怪我の原因も分かって、しかも報復までできて一安心していたが、問題はそれだけではなかった。 焔椎真が言っていた変な感じがするという話。 気になって調べてみたが特に愁生の周りではおかしな感じはしない。 思い当たる節が何もなく、でも焔椎真に何かあっては冗談じゃないと、いつも以上に焔椎真を気にする日々が続いていた。 泉摩利学園は守護の女神の加護を受けているからデュラスは立ち入れないようになっている。 だとするとまた焔椎真に恨みをもつ人間の仕業かという判断に至り、愁生は学園内ではことあるごとに焔椎真の様子を窺うようにしている。 「なあ、愁生。俺は別に大丈夫だって。デュラスはここに入ってこれないんだからさ」 「それは分かってるが原因はまだ掴めてないんだろ?」 「そうなんだけどさ」 「やっぱりか」 学園内でもたびたび愁生に会えるのは焔椎真としても嬉しいが、さすがに心配かけてるという負い目がある。 だから愁生には気にしなくても大丈夫だと何度か言ってみたのだが、冷静なくせに頑固な部分のある幼なじみにはちっとも聞き入れてもらえないでいる。 今日なんかは授業が終わった後、部活も委員会もない愁生が廊下の片隅で「今日は何もなかったか?」と話し掛けてきたのだ。 今愁生と焔椎真がいる場所は滅多なことじゃ人が通らない区域になっている。 それは周りが倉庫だったり使用されていない教室だったりと、普段はほとんど使わない教室が並んでいるからだ。 話の内容も内容だから万全の態勢をとって愁生は話していたが、そもそも焔椎真は細かいことにはあまりこだわらない性格で、『なんか変な感じがする』というこの状況もそんなに気にしていないみたいだ。 おおらかというのか大雑把というのかよく分からない焔椎真に愁生は溜め息を零した。 「だから本当に大丈夫だって! それより部活も委員会もないならたまには一緒に帰ろうぜ」 「そうだな」 再度溜め息を吐いた愁生にこれはまずいと慌てだした焔椎真は、くいっと愁生の制服の裾を掴んだ。 「どうした?」 「いや、心配かけて悪いなって思ってさ」 「別にいいさ。おれが好きでやってることだし、お前に手を出す奴はおれにも敵だからな」 なにやら物騒なことを言い出した愁生だが、たいして何も考えていなかった焔椎真は特に気にも留めずほっと胸を撫で下ろした。 「お前が俺のパートナーで本当に良かったよ」 「いきなり何言うんだ」 「だからいきなりじゃねえってば。いつも思ってるって!」 「そうか。おれもだから。おれもお前がおれのパートナーで良かったって思ってる」 人を騙したり、打算や汚いものには全く無縁の焔椎真の正直な言葉は愁生をとても幸せにさせる。 焔椎真がパートナーで本当に良かったと改めて思う。 へへっと子どもみたいに無邪気に純粋に笑った焔椎真に愁生も穏やかに柔らかく、焔椎真にしか見せない顔で笑い返す。 ちょうどその時だった。 人の気配がしたのは。 「愁生?」 「……焔椎真、今」 「なんだ? 何かあったのか?」 「いや、勘違いだ。なんでもないよ。帰るか」 「そうだな。腹もへったしな」 「またお前は……」 そうは言ったが決して勘違いではない。 愁生が気付いたのと同時に走り去っていった後ろ姿の特徴は前にも見たものだ。 あれは確か、レベル3の重要案件として校内放送で呼び出された時に保健室にいた新聞部の子。 焔椎真本人が隠そうとした怪我の原因を代わりに教えてくれた子。 しかも思い返してみれば以前に写真を許可なく撮ってきた時があって、その時は睨みつけてやった記憶がある。 だから音は聞こえなかったがきっと今回も写真を撮られたんだろう。 いつもは写真を撮られるのが煩わしくて警戒しているが、今は焔椎真といるし、ここは誰も来ないと油断していた。 失敗したなと胸中で舌打ちしたが、前回焔椎真の怪我の原因を教えてもらったという借りがあるから今回は見逃してあげよう。 でも次回からは出し抜かれるような失態はしない。 焔椎真が言っていた変な感じはきっとあの子のことだと愁生は確信した。 保健室での自分達のやりとりを見ていた彼女は、焔椎真に張りついてれば愁生のいい写真を撮れると踏んだのだろう。 ただし愁生としても焔椎真との学園での時間を潰されるのはたまったもんじゃない。 だったら焔椎真といたとしても気づかれないように出し抜いてやればいいんだと愁生は決意した。 「愁生?」 「帰ろうか」 「ああ。帰ろう」 訝しがる焔椎真に不信感を与えないようすぐさま切り替えて、愁生はにこりと笑えば、焔椎真も太陽みたいな笑みをくれた。 ※このお話はリクエストしていただいたナディア様のみお持ち帰り可能です。 ナディア様、「王子様と野性児」の話にリンクした捏造話ですみません! あの話の後にはこんなのもあったかも、といったパラレルワールド感覚で読んでもらえると嬉しいです(笑) 素敵なリクエストありがとうございました! 2010/11/17 |