ハイスクール・ラブ 1 ※8万HITリクエスト6 「臨♀静で来神時代の甘エロ」 この学校には二人の有名人がいる。 一人は折原臨也。 眉目秀麗な顔立ちに加えて成績も優秀な男子生徒でなんだかんだと人を使うのも上手い。 ただし本人は真面目な人間とは言い難く、裏では教師や他の生徒の弱味を握って笑顔を浮かべたまま脅しの材料に使っているとか、人間観察と称して周りの者達を自分勝手にひっぱり回した挙げ句後始末もせずに放り出すとか、そういう噂も少なくない。 ある意味問題児、といえなくもない。 そしてもう一人は平和島静雄。 金色に染めた髪と背の高い男子にも劣らないほどの長身に、大きくも小さくもない胸をもっている女子生徒だ。 ただ、彼女はそこいらの腕自慢の者が束になってかかっても軽くあしえるくらいの強さを秘めているという身体的特徴がある。 普段は大人しいが、時に暴力沙汰を起こすということで、ある意味問題児、といえなくもない。 来神高校きってのビッグネーム二人が実は付き合っているというのは公然の秘密だ。 その理由は見ている方が苛々してくるくらい二人の世界を作っているからできれば関わりたくない、目も合わせたくないというものだった。 しかも折原臨也は平和島静雄に近づく者をことごとく闇討ちにしたり嵌めたりしている。 誰にも気づかれないように、足跡を辿られないように、たとえそれが静雄本人であっても、という念の入れようだ。 静雄に手を出せば臨也が黙っちゃいない。 こんな二人に積極的に関わりたいと思う者が新羅や門田といった極少数なのは仕方のないことなのかもしれない。 そして今日もまた二人のバカップルさながらのやり取りがお昼の屋上では繰り広げられている。 ちなみに二人以外に周りには誰もいない。 臨也と静雄がよくここに来るということで、他の生徒達はいつの頃からか己が余計な火の粉を被らないため屋上には訪れないという、利口な判断を下していた。 「どうだ、臨也。今日の弁当の、その……、味は」 「うん。最初の時から比べて着実に腕を上げてるね。玉子焼きも美味しいし、このポテトサラダも味がちゃんとついてる」 「そうか、良かった」 ほっと胸を撫で下ろしている静雄がこれまで作ってきた臨也へのお弁当はそれはそれは酷いものだった。 元々料理が苦手な静雄は今の今まで家でほとんど料理なんてしたことがなく、母親の作ってくれたものを食べる専門だった。 けれど一緒に昼ご飯を食べている臨也が毎日購買で買ったパンを食べていたり、朝学校へ来る前にコンビニでパンやおにぎりを買うのが日課になっていたので、食生活が偏るのは良くないと静雄が提案したのだ。 嫌じゃなかったらお前の弁当、俺が作ってきてやろうか、と。 その時の静雄の一大決心ぶりもすごいものだったが、珍しく話を呑み込むのに時間を要した臨也の喜びようもすごかった。 静雄をぎゅうぎゅうと抱きしめてちゅっちゅと小鳥が啄むみたいに何度も何度もキスをして。 あまりの熱々ぶりに偶然その場を通りがかった新羅と門田なんてピシリと固まったかと思えば次の瞬間には気持ちをたて直し、門田はまたかという呆れ顔で、新羅は満面すぎる笑みを顔にのせて音も立てずドアを閉め、今のは見なかったことにした。 とはいっても鈍い静雄はいざ知らず、臨也は二人がドアを開けたのも、やるせなくなってドアを閉めたのにも気づいていたが、せっかくの時間を邪魔されたくなくて気づかないふりをしたが。 そんなことが以前あって静雄は臨也の分の弁当を毎日せっせと作りはじめたのだ。 最初は玉子焼きが焦げてたり白ご飯を炊く際の炊飯器に入れる水が多かったり少なかったり、まともに包丁を扱えなかったりしたが、今では多少ましになっている。 美味しいお弁当なんてものはまだまだ静雄には遠い道のりなのだが、それでも臨也が美味しくないとか不味いなんて表情を一瞬でも見せようものなら勘の良い彼女が「食べるな! もう無理して食べなくていい!」と弁当箱を奪い返そうとしてくる。 臨也としては恋人が早起きして、しかも料理が苦手にもかかわらず自分のために丹精こめて作ってくれたお弁当を食べないなんていう選択肢はどこにもないのに、ちっとも静雄には分かってもらえないのが悩ましいところだ。 「あっ!」 かなり不恰好に切られたたこさんウインナーを臨也が頬張っている時だった、静雄が声を上げたのは。 「どうしたの、シズちゃん」 「やべえ、俺次の時間の数学当たるんだった。悪いけど教室戻るわ」 「え、でもせっかくの休憩時間なのに」 「そう言ってもな。答えらんなかったら恥ずかしいだろ。そりゃ手前みたいに勉強できる奴は当てられても余裕なんだろうけどよ」 「じゃあさ、俺が勉強教えてあげるから教科書持ってきなよ」 「でもせっかく食ってるのに邪魔しちゃ悪いだろ」 「俺にとってはシズちゃんとの時間が減る方が問題だよ。クラスだって違うからあまり会えないのにさ」 それからも何度か悪いからいいと言って断ろうとしたが頑として臨也は譲らず、結局静雄は教科書とノートを持って戻ってくるはめになった。 2010/11/5 |