「クリスマス?くだらん!」
「それ、似てると思ったら大間違いだぜ?」
「…そう?わりと似てると思うんだけどなぁ」

真田くんってそういうのあまり好きそうじゃないしなぁ。袋詰めされていく星型のクッキーを見て、クリスマスに浮かれる彼を想像してみたけれど違和感しか心に残らない。モールで袋を閉じ、班の人達に配る。

12/24、クリスマスイブ。本日の家庭科のメニューはローストチキンにミネストローネ、クッキー……クリスマスを意識した献立。残念ながら料理が得意というわけではないので、私はひたすらバターを白くなるまで練っていた。バターが白くなるわけ無いだろ…なんてタカをくくっていたもんだからクリームみたいになったバターに感動したし、頑張ったおかげか出来上がったクッキーはさくさくでおいしい。
そんなクッキーを同じ班のジャッカルくんは例の如く、真田に〜真田〜と言ってくるのだ。そんなに真田くんが好きならジャッカルくんがあげればいいのに。ラッピングされたクッキーは先生が家族と一緒に食べるように用意してくれたものだし。なんでわざわざ真田くんにあげなきゃいけないのか。

「私は誰かにあげるより自分でたべたいなぁ、このクッキー。初めて作ったっていうのもあるけど、これすごくおいしいし」
「…お前いつの間に食べたんだよ」
「…つまみ食いを…」
「変なところでちゃっかりしてるよな」
「製造者として味の確認を…」

私がそういうと呆れたように笑い、頭を小突いてきた。手の中のキツネ色をしたクッキーをポケットに入れ、ジャッカルくんへ仕返しのパンチを食らわせる。呻き声のあとに反撃をくらい、先生が注意するまでそれは続いた。








クリスマスイブといっても部活はある。下校時間はギリギリ。薄暗い廊下、息は白いし指先はつめたい。カイロをポケットの中にしまっておいたのを思い出して手を突っ込むと、ビニールの感触がある。あ、そうだ、クッキー入れておいたんだっけ。
カイロと一緒に取り出すと、星の形をしていたはずのクッキーは無残にもボロボロになっていた。部活で激しく練習しすぎたからか、ジャッカルくんとのじゃれ合いのせいか。理由はわからないけれど以前の面影もないそれ。

「これはひどい…」

ひとかけら取り、口に入れる。味は変わらないけれど、見た目は最悪なものになってしまった。さすがに悲しい。あんなに頑張って作ったのに、自分の不注意でこんなになってしまうなんて。ちゃんとカバンに入れておけばよかった。

「そこで何をしている!」

しんとしていたはずの廊下に低く鋭い声が広がる。肩をびくりと震わせ振り返ると、まさしく鬼の形相をした真田くんが立っていた。私だとわかると彼は不思議そうに私の名前を呼んだ。

「もう下校時間は過ぎているぞ。早く帰宅しろ」
「あ!そっか、ごめんね。真田くんは…風紀委員の見回り?」
「ああ。浮かれている生徒が多いのでな。菓子を持ってきたり色々と違反をする生徒が多い」
「クリスマスイブだもんね」
「クリスマス?くだらん!」

私が想像した通りの言葉をいうもんだから笑いそうになる。それを見て不服そうにしている真田くんがおかしくて、ちょっとかわいい。

「…ところでその手に持っているものはなんだ?」
「え?あ、えっと…クッキー……だったもの…?」
「…お前も浮かれていたのか」
「ごめんなさい。って、これは家から持ってきたんじゃなくて授業で作ったんだけど…没収する?」

没収されたらボロボロになって更に腐るという恐ろしい事態になるのか…とことん可哀想な目に合うクッキーだ。どうせならもう捨てた方がいいかもしれない。キュッと胸が苦しくなる。
授業で作ったというところに引っかかったのか、真田くんは困った顔をして私の手の中のクッキーを見ている。モールで留めて前に出すと、躊躇ったものの受け取ってくれた。ゴミを押し付けるみたいで、ちょっと申し訳ない。

「それね、捨てちゃっていいよ」
「せっかく作ったんだろう?」
「でも…ほら、ボロボロなの。元々は星の形だったんだけどもう跡形もないし」
「…いらないのか?」
「…」

何も言わずに頷くと、真田くんはそうか…とだけ言ってモールを取りそのままクッキーをかき込んだ。ゲホンゲホンとむせる真田くんに唖然して声もでない。
な、なんでクッキー食べて…?というかそんな一気に食べなくったって…

「うまいじゃないか」

むせたのが治まってきたのか、ぽかんとした私の肩に手を置いて真田くんはそう告げた。

「捨てるなんて言うものではない」
「でも」
「一生懸命作ったのだろう」
「…うん」
「ならば尚更言うものではない。お前が努力し作ったものを、見かけが悪くなったくらいで捨てようとするな」

真田くんは、いつも私が言われて嬉しいことをガツンと言ってくれる。それは決まって胸に響いて染み渡り、私の心を揺さぶるのだ。何も言わない私を、少し心配そうに見つめる彼の目に心臓が高鳴る。

「真田くんありがとう」
「すまないな、勝手に食べてしまって」
「真田くん風紀委員なのにね」
「ぐっ…!」
「でもね、食べてくれて嬉しかったよ」
「そうか」
「うん、とっても」

なんだかくすぐったい会話。でも嫌いじゃない。はにかんでもう一度ありがとうと告げると真田くんの頬が淡く朱に染まる。こんな薄暗い中でもわかるってことは、私の顔が赤いのもバレてるのかな。見回りの先生が来るまで、二人揃って顔を赤くしたまま笑いあっていた。


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