お砂糖でくるんだ魔法

「なんかなまえ、いつもと匂い違うね」
「お、めざといね虎次郎くん。そうなんだよ香水つけちゃった」
「買ったの?」
「ううん、同僚のをちょっともらったの。いい匂いでしょ?」
「…男?」
「んなわけないじゃない」


男物の香水をつける趣味はないし、そもそも私の職場は女ばかりである。いるのはおじいちゃん専務くらいだって知ってるくせに…サエの束縛したがりは年をとっても変わらないようだ。
手首から香る花の甘い匂い。いい匂いだね、と言ったらつけさせてくれたのだ。違う香りに包まれていると自分が自分じゃないみたいで面白い。


「いい匂いがするね」
「でしょ?でも買ってつけるとなるとなぁ…流石に同じの付けるのはって感じだし」
「別に無理してつけなくてもいいんじゃない?俺、いつものなまえの匂い好きだよ」
「…あっそ」
「はは、照れてる照れてる」
「うっさいボケ!」


こ、コイツゥ…私の佐伯の言葉で照れてしまうところも年をとっても変わらないようだ。だいたい私の匂いってなんだ。体臭が好きと言われなかっただけましか。そんなこと言われたら綺麗なお顔にグーをめり込ませることになる。


「そうだ!俺のやつ使う?」
「ハァー?」
「いい男よけになるんじゃないかな、ほら、どう?」
「魔よけにはなるんじゃない?」
「失礼だなぁ。っと、そうと決まればほら!この前買ったのあげる」
「んなわざわざ新品出さなくても…」
「え?俺の使いかけがいいの?なまえのヘンタイ!」
「アホ言ってんじゃないわよ…まあいいや、サエがいいなら新品のもらうね」


男よけもなにも言い寄ってくる男なんていないのに…束縛したがりのされたがりめ。箱から取り出すとガラスでできた薄い青のかかった瓶にラベルが貼っつけてあって、シックでかわいい。こういう小物もですらいちいちセンスのいいやつである。とりあえず明日つけて会社行ってみるかな…






「サエ、やっぱ香水返す」
「え、なんで?」


元通り、箱に入れて差し出すと納得のいかなそうに口を尖らせるサエ。なんでもなにもない。これをつけてるととにかく落ち着かないのだ。何気なく香水が香ると近くにサエがいるような気がして、どうにも気が散る。私はサエがいるとだらけてしまうし自堕落になってしまう傾向があるので、この匂いは大変よろしくない。あと同僚に「昨晩は彼氏とお楽しみ?」とゲスな質問をされたのでもう絶対につけない。


「サエの匂いはサエだけで充分って感じよ」
「つまり…どういうこと?」
「めんどくさいから察して」
「でた、なまえのめんどくさがりだ」


サエに寄りかかるみたいに抱きつくと、子供をあやすように頭を撫で、背中をさすり優しく名前を呼んでくる。胸に顔をうずめて目一杯息を吸う。ああ、やっぱりこの匂いは落ち着く。私がつけていた時よりもずっといい。


「要するにサエの匂いが好きってこと」


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