フレームインする足音


私はとてもぐうたらな人間だ。

ぐうたらエピソードはそれなりにあるけれど外面が良い私は周囲からは「しっかり者」として接しられてきた。私の怠けた面を知っているのは家族とごく一部の友人だけで、三者懇談の時に先生に「なまえさんはとても真面目で気の利く模範的な生徒で…」とのコメントをもらい母親が私を凝視してきたことは記憶に新しい。
周りがそういったイメージを持つのに一役買っているのに委員長ということも含まれている。春の陽気に誘われてうつらうつらとしていたら知らぬ間に誰かが私を推薦し、否定する間もなく決まっていた…という悔やみたい過去である。後悔先に立たず。


「えー、生徒総会での発言は私がクラスの代表として行います。従って各班に分かれ質問等を考えてください。時間は5分を目安とします。それでは始めてください」


やってらんねぇ…。なにがよくて委員長なんてやらなくちゃならんのだ。いや、こういう時に仕切り役をしていれば意見を考えなくていいから楽っちゃ楽だけど。ため息をつくと生徒会のメンバーだからという理由で書記をしていた佐伯が気がそれに気がついたのか、少し困ったように私に労いの言葉をかけた。


「委員長かぁ…どうして私なんかになっちゃったんだろ」
「そりゃあみょうじさんが委員長に向いているからだろ?ほぼ満場一致だったんだから」
「…それ、そういう佐伯くんもそうだったの?」
「ふふ、どうだろうね。それは秘密ってことで」


この流れからすればコイツも私に入れたんだろうな。本当にめんどくさいことをしやがって。秘密ってことで、とか、こういうミステリアスアピールをされても佐伯めんどくさっ!という結論にしかならない。そういえばこれが初めての会話のはず。…変な話だなぁこれ。
周りが少しうるさくなってきたので諭し、意見を聞いていく。私の隣で笑っていた佐伯は黒板にカツカツとさほど綺麗でない字でそれを書き綴っていく。見た目に反して字はそこまで上手じゃないのか。ちょっと親近感、かも。









「これ佐伯に渡しちゃえばよかったなぁ…」


放課後、意見をまとめた紙を生徒会室に運びながら今日何度目かわからないため息をついた。佐伯に渡しちゃっていればわざわざ行かなくてもいいのに。別に明日でもいいけれどせっかくまとめたのだから今日中に提出したい。


「みょうじさん?」
「えっ?ああ佐伯くん」
「もしかして生徒会室に向かってた?資料の提出かな?」
「…すごい、よくわかったね」
「俺エスパーだから」
「ごめん、わけわかんない」


佐伯のミステリアスアピールはどうやらまだつづいているらしい。佐伯めんどくさっ!邪険そうに見ていたのが伝わったのか、彼は私の手から提出のプリントを抜き取ると照れたように笑い、お疲れ様と言った。


「これ、持ってるの見えたからさ。ひょっとしてと思って。提出期限までまだあるのに…みょうじさんいつも仕事早いね」
「後回しにしても結局はやらなくちゃいけないんだもん。ならさっさと片付けた方が楽じゃない?」
「…そういうところだよ。委員長にえらばれたの、そういうところがいいってみんな思ったんだ」
「別に、こんなの普通だって」
「…みょうじさんって実はめんどくさがりだよね」
「えっ!?」


どうしてわかったんだろう。私、学校ではできるだけ怠けないようにって気をつけているのに。話しをしたのだって今日が初めてなのに、そんなやつに見破られるなんて。


「なんで、わかったの?」
「そりゃあエスパーだから…っていうのは冗談で。いつも見てるからね、みょうじさんのことは」
「ええー…?」
「いやっ!ストーカーとかそういう事じゃなくてさ、気になってたんだ。それで授業中とかみょうじさんの方を見ると勉強しているように見えるのに実は寝てたり。体育もちゃんとやっているように見えるんだけど…っていうのよくあるからさ」
「ば、バレてたのか…」


佐伯に告げられたことはみんな身に覚えのある出来事。外面がいいからバレないと思ってたのになぁ。いろいろと気になる発言もあったけれど、ここは面倒なのであえてスルー。


「でも、学校でそういう風に言われたのって初めて。みんな私のことしっかりしてるっていうし…あ、自慢とかそういうんじゃなくてだよ?」
「めんどくさがりを突き詰めたらしっかり者になったのかもね。ほら、めんどくさくてもみょうじさんはその後の方かめんどくさいから早く終わらせるタイプだろ?」
「うん、まあ…」
「そういうところいいと思う。俺はそこが好きだし。それにしても気がついていたのは俺だけか。そっか」


好きだ、と佐伯が言ってくる度に胸がいちいち反応する。このことを突っ込んだらめんどくさなるんだろう。…でもそろそろスルーできないレベルになってきたというか…結局佐伯は私のことをどう思ってるんだ。


「本当はもっと時間をかけて、なんて思ってたんだけどね。やっぱりこういうのってタイミングだよな。あのさ、俺好きなんだ。女の子として同じクラスになった時から好きだった」
「…」
「だから、付き合って欲しい」


[ prev / next ]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -