なんちゃって記念日

2時半。いつの間にか昼寝をしていた私を起こしたのは香ばしくて少し甘い匂い。なんの匂いだろう、これ。サエの掛けたであろうタオルケットを畳んでからじゅうじゅうと焼ける音のする方へ向かう。



「サエ、なに作ってるの?おやつ?」
「ああ、おはようなまえ。おやつ…には重いんじゃないかな」
「えー?」



私の鼻的にはキャラメリゼした林檎なんたけど…苦笑いするサエに近づいてフライパンに視線を送ると玉ねぎと人参と一緒に大きな塊肉が…え!?



「なっ、な、何このお肉!?えー!?今日って特別な日とかだったっけ!?」
「大袈裟だなぁ。ただこの前安かったから買っておいたんだけど…言ってなかったっけ?」
「言ってない!!おいしそう…確かにこれはおやつには重いや」



私の鼻はまったくアテにならなかったようだ。うーん、いい線行ってたと思うんだけど。結婚式の引き出物カタログで頼んだ圧力鍋を引っ張り出して、フライパンの中身を移すサエ。今日の夕御飯はとびきり美味しいぞ、これ。


「ワイン煮?」
「あー…いいけどワインないんだよなぁ。だからスタンダードにコンソメ」
「デザートは?」
「…強いていうならお徳用バニラアイス1L、かな?」
「ここにきて急にムードなくなったね」



くすくす笑う私にサエはポトンとコンソメを落とし、留める意味があるのかないのかわからない髪をほどいて冷蔵庫の隣にある買い物かごを持った。なにが足りないものでもあったの?と聞くとニヤリと笑ってまあねと返す。ローリエとか?



「そうだな、ムードのあるデザートかな」
「わっ!私ね、キャラメリゼした林檎がいいなぁ…ってこれは私が作るとして。林檎と、それとワインも買おう!赤いやつ!」
「なんだか豪華だね」
「ね。特別な日でもないのに」
「なら今日、特別な日にする?」
「ううーん、さすがサエ。キザだね」
「キザかな」
「キザだね」



まあサエがキザなのは今に始まったわけじゃないんだけど。特別な日か…夕御飯に豪勢なお肉が出たからこれから今日は豪華な夜ご飯記念日?いや、ないな。ダサい。
今日はランチョンマットなんて引っ張り出してワイングラスも綺麗に磨いちゃって、レストランみたいに洒落た感じにしてみよう。なんちゃって記念日だけれど、こういうのも悪くないかなぁ、なーんて。アーモンドピンクの買い物かごを持ったサエの空いている手を握ってアパートの鍵を閉めた。



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