▽ 清らかな腕
「あー……」
気づいた時にはもう遅く、真っ白だった泡が血でピンクに染まっていく。やってもうた。春の陽気でも暑い時は本当に熱く、腕まくりをするのも多くなったし…なんてことで無駄毛を処理していた時だ、ふとくしゃみが出てそれはまあ盛大にざっくりとやってしまった。傷は浅いし痛くもない。まあカミソリ負けなんてよくあることだしいいか…
「みょうじ、その傷はどうした?」
「え?あ、あー…」
そんなことをすっかり忘れ暑いからと腕まくりをしていたら目敏くも真田に指摘されたカミソリ負け。そこまで目立つもんでもないのに人をよく見てる奴だ。さすが風紀委員長様である。
「大した傷じゃないし気にしないで」
「そういうことを聞いているんじゃない!どうしたんだと聞いている!」
「え、えと、カミソリで…」
「だっ誰かにやられたのか!!」
「いやそうじゃなくて自分で…」
「自分で!?!?」
過敏すぎる反応に若干引いている私をよそに真田はワナワナと震え私の方をガッツリと掴むと「みょうじ!」とこれまた大きな声で叫んだ。うるせえ。あとここ教室だからね、静かにしようね。おい柳生コイツどうにかしろや同じ部活で委員会だろ。
「どうしてそのようなことをした!」
「は?いやそろそろやっとかないとと思って…」
「な、何を…お前まさかこのようなことが初めてではないというのか…!?」
「まあそうだけど…ってなんの話だこれ」
「もっと体を大事にせんか貴様!!!」
「でえぇ……?」
わけわかんねぇぞ…ただ単に無駄毛を処理してカミソリ負けしたって話なのになんで体を大事になんで話になってるんだ。真田の暴走はこれだけで収まらずなぜ相談しなかったとか一体どうしてとか、そりゃもう意味のわからないものになっていた。
「せっかく、綺麗な腕をしているといのに」
「えっ…え!?」
「なんだ急に」
「いやそれは私のセリフなんだけど…」
「いいか、もう二度と自傷行為なんてするなよ」
「……ん?」
自傷行為って…つまり何?真田は私が故意にカミソリで傷をつけたとでも思ってたの?う、うわぁ…そういうことか…そう考えるとさっきまでの暴れっぷりにも納得がいく。きれいな腕ねぇ…?その綺麗な腕のためにこの傷が生まれたんだけどね。でも、ま、褒められて悪い気はしないな。仕方ない。ちょっと高いけどまこんな騒ぎになると面倒だし今度は除毛クリームにしよう。
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