▽ シンデレラタイム
靴を取られた。からかいの範疇だけれど非常にめんどくさい。掲示物の取替を頼まれて上履きを脱ぎ、椅子の上に立ったところ…これだ。しかも片方だけ。悲しいかな、それに驚いて椅子から転げ落ちた私は教室から出ていった靴を取っていった男子を追いかけることはもちろんのこと、びっくりして立てないでもいる。
「みょうじさん大丈夫?」
「…うん、なんとか」
「ほんっと男子ってクズよね!」
ひどい言いようだ…わらわらと私の元に集まってくる女子にテキトーに相打ちをつきつつどうするか考える。靴下のまま、しかも今更追いかけるのもなぁ…
「みょうじ」
「う、わ。真田くん?」
女子の壁を越えて真田くんがにょきっと声をかけてきた。座り込んでいるから彼の大きさが良く分かる。巨人みたい。そのまま女子をかき分け私の目の前に立った真田くんの顔に視線を合わせると、話しにくいと言って私と同じように座り込んだ。手には見覚えのある…私の上履き。まさか取り返してきてくれたのだろうか。
「お前のだろ」
「うん、私の…ありがとね」
「上履きを持って走っていく男子が見えたのでな、捕まえてみたらお前のものだった」
「なるほど…」
「ところでだ。なぜこんなところに座っているんだ」
不思議そうに見つめる真田くんに椅子から落っこちたことを伝えると、あいつら…と廊下の方をにらみながら呟いていたので、きっと懲らしめてくれるのだろう。助かる。私の上履きを差し出してくれた真田くんにお礼を言って受け取ろうとして、彼から声がかかる。「違う」「なにが?」「履け」…履け?つまりこの、真田くんに上履きをもたせたままこれを履けというのだろうか。いくらなんでもそれは…
「…もしかして履けないのか」
「いや履けるけどさぁ…っていうかそんな汚い上履き持ってなくていいよ!」
「上履きなのだから当たり前だろう、履けるのならば履け。俺はそれまで持ってるぞ」
「ひ、ひえぇ…」
強情なやつだ。仕方なしに上履きに足を入れる。な、なんか変な感じがする…人に持ってもらうなんてこと、普段じゃ絶対にないからなぁ。靴を履いたことに満足したのか、真田くんはニッと笑い手を差し出した。これは、握れということなの?恐る恐ると彼の手に合わせるとそのままの上に引っ張られ、自然とその場に立つ。
「え?」
手は握ったまま、真田の顔は遠くなって、でも距離は少し近くなって。「平気そうだな」真田くんの発した言葉にうんとだけ言うと、彼は空いているほうの手で私の頭を撫でた。ああ、なんだか、魔法にかけられた気分だ。
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