真田ァ!誕生日おめでとう!!!! | ナノ


▽ 夏休みのにおい




「げんちゃん!」


夏休みが待ち遠しくて仕方なかった一番の理由はげんちゃんだ。おばあちゃん家の近くのおうちに住んでいる私と同い年の男の子、げんちゃんは私がこちらにいる間の遊び相手だ。げんちゃんの話し方や振る舞いはおじいちゃんみたいで面白い。こういう男の子は私の小学校にはいないもん。


「なまえ、どれくらいこっちにいるんだ?」
「わかんない!でもね、いっぱいいられるんだよ!」


げんちゃんは日に焼けた顔でキリリと笑うと、ついて来いと私の手を握って歩き出した。どこに行くんだろう。道中はセミの鳴き声がうるさいくらいに響いていた。




「ここなに?」
「テニスコートだ」
「テニス?げんちゃんテニスするの?」
「ああ、試合もある。見にきてほしい」
「うん!いく!」


パコンパコンという音が気持ちよくて、ずっとここにいるのもいいなぁなんて考えながらげんちゃんとフェンス越しに知らない人たちの試合を見る。これを、げんちゃんがやってるんだよね。見たいなぁ…きっとげんちゃんは強いんだろうなぁ…






「いやぁ、あの約束がこんなに長引くとは…」
「俺だってこんなに遅くなるとは思わなかった」
「まさか次の日にお父さんの海外転勤が決まって家に帰ることになるなんてなぁ…」
「もう、会えないかと思った」
「私も…げんちゃんには嫌われたと思ったし」
「そう簡単に嫌いになるか」


やけに大人びた顔をしているげんちゃんは、もう「げんちゃん」なんてあだ名が似合わないくらい成長していて、でも日に焼けた顔が昔と変わらずそのままだ。生ぬるい風が私達を包む。夏の日差しとセミのコンボで汗が滲んでゆく。
テニスコートは好きだ。げんちゃんが初めてここに連れてきてくれた時に気に入ってから、私は家の近くでもテニスコートを探してわざわざこの音を聴きに行くくらいには、好きになっていた。…げんちゃんとの思い出の場所だから。


「げんちゃんは夏が似合うね」
「生まれは春だけどな」
「夏の日差しとか、ひまわりとか、すごく似合うのにね」


きっと夏休みに会っていたからなのだけれど、げんちゃんは夏のイメージなのだ。げんちゃんに会って初めて私の夏が始まる。久しぶりの夏は、少し汗の臭いがした。



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