▽ 優しい背中
ハズレだ。席替えの結果を見て私は非常に落胆した。席自体は悪くないけれど、この席だと私はつまり、真田くんと同じ班になってしまうではないか…
林間学校の班を決めるのと同時に席替えをすると告げられたHR、仲のいい子と一緒がいいとかイケメンと行動したいとかみんな思い思いに言っていたと思う。私もその中の一人だが、ただ一人、絶対に一緒になりたくない人が居た。真田くんだ。
真田くんは歩くのが早い。彼と私は同じ小学校で、さらに私が引越しをして転向するまでの間ご近所さんだった為登校班が一緒だったのだ。登校を共にするはずの登校班だが真田くんの足はとてつもなく早く、追いつくのに精一杯だった。現在は中学生、もっと早くなっているに決まってる。林間学校最大のイベントのオリエンテーションでは、林の中を班で別れてひたすら歩くという最早修行レベルのイベントが待ち構えているというのに…
「っはぁ、はあ…はっ…」
「みょうじさん大丈夫?」
「ごめ…」
当日、私が考えていたよりもそれは厳しいものだった。班のメンバーが私以外全員運動部と、もはや仕組まれたのでは?と思うほどだ。前日に降った雨で足元はぬかるむしみんな足は速いし…もういやだ…
「これくらいで息を切らすとはたるんどるぞ」
この言葉、前にも聞いたことがある。この真田くんの言葉は登校班で真田くんに追いつくのに必死でずっと小走りをしていた私に投げかけた、あの言葉と全く一緒だ。悔しい。体力の差も慣れてないことも、わかっているのにすいすい行っちゃうくせに。なにがたるんどるよ。キッと口を固く結んで前に一歩踏み出す。
「バカ!」
「うわあっ!」
踏み出して置いた場所は綺麗になだれ、体制を崩す。何をやってるんだろう私、やってやると思った途端にこれって。慌てて立とうとしても捻ったのか立てなくて、自分の無力さに腹が立つ。
「みょうじ」
「…なに?」
「おぶされ」
「なんで、そんな」
「立てないのならこうするしかないだろう。早くしろ」
拒否しようとした私をおいてけぼりに、真田くんは無理矢理私を背負う。真田くんの背中は広くて暖かで、そういえば真田くんにおんぶしてもらったのはこれが二回目だ。小学生の時も転んだ私をおぶさってくれたことがあった。変わらない広い背中が懐かしくて、ひねった足が痛いのもあって、少し泣きそうになってしまった。
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