▽ 口笛
「え?真田って口笛吹けないの?」
なんだか意外で聞き返すと、真田は悔しそうにそうだ、と言った。真田はなんでもソツなくこなすから口笛だって簡単にできるもんなんだろうって思ってたけれどそうでもないのかもしれない。
月9のテーマソングをぴゅうぴゅうと口笛で吹いていたら真田が目敏く注意したところが始まりで、まさか口笛如きで怒るとも思わなかったし、しかも彼女に怒鳴ることもないじなゃないと、ついカチンときて「真田は口笛できないから、羨ましくて私にそうやって当たるんでしょう?」なんてからかったら、まさか本当だったとは。
「加減が上手く出来ないのだ」
「ちょっとやってみてよ」
真田にやるよう促すと、ひゅーひゅーと口笛というよりはろうそくの火を消すみたいに息を力強く吐き出す。真田の息が力強すぎるせいか、前に立っている私の前髪がめくれあがる。やめてくれ、セットに時間かかってるんだからな。
「まずはあれよ、口の形がおかしいんじゃない?」
「こうか?」
「なんで口笛を吹こうとしてるのに目一杯口を開けるの?もっとすぼめてよ」
「うむ…」
きゅっと唇を突き出した真田に、どきりと胸があねる。な、なんかこれってキス顔みたい…付き合っているけれど真田のキス顔ははじめてだ。キスするときはいつも目をとじろっていわれるもんなぁ…
「あの…さ、目を閉じて集中してみたら上手くいくんじゃないかなー…なんて…」
「なるほど、経験者は違うな」
「あー…うん、まあね」
嘘っぱちである。本当はキス顔が見たいだけなのに真田は納得したようにまぶたを閉じて口を突き出したまま「どうだ?」なんて聞いてくる。バカ…真田ってほんとバカ…可愛い…。そのままキスをすれば、顔をこれでもかと赤くした真田にものすごく怒られたけれど、でも満足している私にはそんな声全く届かなくて、叱る声も言葉も照れ隠しにしか聞こえないのだ。
それから真田に「口笛教えてあげようか?」と聞くと、あの時のようにキス顔で私を待つ真田を見ることができるようになった。まったく可愛い彼氏様である。
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