フリリクありがとうございますっ!! | ナノ
ミス・プリンス

「やあ、みんなおはよう」


右手をゆっくりと振りながら微笑みを向けると、キャアーッ!と黄色い歓声がクラスを包んだ。最早恒例となっているこの光景に、少し苦笑いする。


「おはようございます、王子!今日も大変美しいです!」
「はは、やだなぁ!僕は王子でもなんでもないただの人さ。クラスメイトなのだから敬語はなしにしてくれ、さみしいだろ?」
「アアアッ王子ありがとうございますぅううう!!!」


このクラスになってから二回ほど季節が変わったが、この歓声は大人しくなるどころがエキサイトしてきている。
僕、名字名前は正真正銘の女ではあるけれど周りの人からは「王子」なんて呼ばれている。それは男のように高い身長だとか宝塚っぽい顔立ちなんていう見た目のせいもあるし、こんな話し方のせいもあるんだろうけれど、彼女たちがそれで喜んでくれているのならいいかな…なんて。


「おはよう弦一郎。ごめんな、煩くしてしまって…」
「…いや、構わない。もう慣れてしまったしな」
「確かに同じクラスになってからずっとこれでは慣れるか」


隣の席の弦一郎にはにかみながら言うと、ため息をひとつ落として席を立ち「静かにせんか!」…とお決まりのセリフを吐いた。静まる教室内を見渡してまだ彼はまたさっきみたいに席に着く。これが日常になってどれくらい経ったんだろう。弦一郎の隣は彼が幼馴染みということもあってか、妙に落ち着いた。





「困ったなぁ…」


好きです、と書かれた手紙を見てひっそりと頭を抱えた。この手紙の差出人に会ってきたのは少し前のこと。問題はその差出人が女の子、ということだ。
付き合ってくれと言われても僕は結局のところ女なので、それは遠慮したい。こんな男のような振る舞いをしているからといって同性愛好者というわけではないのだ。女の子に告白されるのはこれが初めてじゃないけれど、流石の僕も疲れてしまう。はーあ、なんてわかり易い溜息が口からこぼれた。


「どうしたんだ」
「えっ!?」


誰もいないはずの教室なのに、なんで。入口を見れば弦一郎が重そうなバッグを片手に持ち、僕の方に進んでくる。弦一郎こそどうしたんだよ、と尋ねれば委員会があったと返される。


「悩み事か」
「まあ、そんなとこかな」
「話せばいいだろう、少しくらい聞いてやる」
「弦一郎にしては僕を甘やかすんだね」


なんて冗談っぽく言って机に顔を伏せた。そんな僕の行動に弦一郎は泣いているのか、なんて言ってくるもんだから笑ってしまう。長年幼馴染みをやっていて僕が滅多に泣かないって知ってるくせに。
うつ伏せのまま僕を悩ませることを少し、ほんの少しだけ弦一郎に告げる。こうやって人に話すだけで随分と心は軽くなるもんだ。


「それなら女らしく振舞えばいいだろう」
「今更そんなこと言ったって無理だよ。これは最早僕のアイデンティティでもあるし…それにきっとみんなドン引きする」
「なぜだ」
「なぜって…そりゃあ、僕が男みたいだから」


僕がそう告げると、ぴたりと弦一郎は話すのをやめた。急に何も言わなくなるなんて。どうしたんだよ一体。顔を上げてみれば弦一郎は不思議そうな顔で僕を見ている。なんだよ、無言は肯定って意味で受け取るぞ。


「名前は別に男みたいではないだろう」
「…え?」
「お前は昔も今も異国の姫のような…」
「ブーッ!?ちょ、げ、弦一郎なに言ってるんだよ!?姫って…ひ、姫って…!!」


弦一郎の口から姫って、なんて笑えるんだ。ヒーヒー言いながら笑うと弦一郎はわかり易く眉をひそめた。それでも僕の笑いは止まらないし弦一郎も無理に止めようとはしない。


「あー、もう、おかしい!おなかいたい!」
「…そこまで笑わなくてもいいだろう」
「無理無理。こらえるのなんてできないって。…まあ弦一郎のおかげでちょっと吹っ切れたかな」


席を立ち伸びをする。窓から指す日はもう暮れかけている。うーん、長いこと考え込んでたんだなぁ。でも、もうそれもおしまいだ。


「ま、できるところから女の子っぽく振舞ってみようかな…って」





「やあ、おはよう」


そんなことを言っても僕は僕のスタイルをそう簡単には変えられない。いつもと同じように教室に入り、話しかける僕を見て弦一郎は厳つい顔をした。


「いつもと変わりなにように見えるが」
「ま、外見はすぐに変えられないしね。だから言っただろ、できるところから…って。はい、これ弦一郎の分」


鞄から綺麗にラッピングした包を渡す。開けてみてよ、と弦一郎に言えば乱雑にビリビリと包を破くので苦笑い。…中身を見た弦一郎も苦笑い。


「なんだこれは」
「くまちゃん。かわいいだろ、これ。まあ僕の愛用はうさちゃんなんだけど」
「そうじゃない。どうしてこれを俺によこすのだ」
「とりあえず女の子っぽいかなって思ったから裁縫から始めたんだ。こういうの本当は好きなんだよね。似合わないかなって思って隠してたんだけど…」
「しかし男の俺が持つにはいかせん可愛らしすぎでは」
「いいじゃんか、それ、弦一郎のために僕が作ったんだぞ?夜なべしてチクチクしてたんだぞ?昨日のお礼ってことで貰ってはくれないかな、弦一郎」


ここまでいうと渋々鞄にぬいぐるみを入れる弦一郎に笑みがこぼれた。自分で渡しておいて、って感じだけど弦一郎にぬいぐるみって似合わないな。これをだっこして寝てる弦一郎を想像して、やめた。シュールだ。おかしすぎる。精市なんかはぬいぐるみと寝てるの似合いそうだけど。…にゃんこのぬいぐるみとか抱いて寝てたらかわいいんじゃないか?


「それ、僕だと思って大事にしてくれよ」
「…まあ、考えておこう」
「だっこして寝たりしてもいいぞ、肌触りいい布だしね」


僕の言葉に少し固まって、顔を赤くする弦一郎に思わず吹き出した。そんな、真面目に受け取らなくても。次はどんなことをしようか。その度にきっと面白い反応を見せてくれるんだろうなぁ、この幼馴染みは。こうなったのは弦一郎が言ったからなんだからな、ちゃんと責任取れよ?なんて、まあ、とりあえずは


「ありがとね、弦一郎」




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ギャグ甘、とのことでしたが……甘、い……?
なんと言うかふざけ倒した感がひどいです。フリリクの内容を見てオスカルがぱっと頭に浮かんだのですが、なんともかんともこの想像力のなさ…。今回はフリリクもアンケもありがとうございました!


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