フリリクありがとうございますっ!! | ナノ
きたいしちゃうよ


「いらっしゃいませー」



ちりんちりんとお客様の入出を伝えるベルが鳴る。レジからチラリと見れば、ここのところよく来る赤毛の男の子だ。私に気がつくと一礼してくれる、イマドキの子にしては礼儀正しい男の子。いや、私も充分イマドキの子だけど。
ぱっと目立つ髪色から、赤毛のアンから取ってアンくん、なんて心の中でひっそりと呼んでいる。アンくんは私がシフトの時に必ず来る男の子で、甘いものが好きなのかしょっちゅうお菓子を買いに来る。新商品は必ず買っていくあたり女子高生みたいで、ちょっとかわいい。


「お願いします」


こうやってレジに出す時ですらちゃんとお願いしてくれるあたり、彼の育ちの良さを感じる。たくさんのお菓子を台に乗せてお財布を見つめるアンくんを横目に、どんどんとバーコードを読み取る。値段を言うとアンくんは待ってましたと言わんばかりに小銭をジャラジャラと並べた。彼はなぜかたくさんの小銭で、そして必ずお釣りが出るように支払う。謎である。


「レシートと、5円のおつりです」

「どうも、名字さん」

「ありがとうござ…え?な、名前、なんで!?」


5円玉を文鎮の代わりにレシートの上にのっけて手渡すと、アンくんがにやりと笑って私の苗字を呼んだ。なんで知ってるの!?なんてパニックになっている私を見てココ、と左胸を指さしトントンと叩くアンくん。自分の左胸を見ると、あまり写りの良くない私の顔写真の横に"名字"と、苗字が書いてある名札があった。な、なるほど…


「へへ、びっくりした?」

「すごい、びっくりしました…」

「あ、あとさ。名字は何時に終わるわけ、バイト?」

「えっと…22時までですけど」



私の発言にハァ!?嘘だろ!?と返すアンくんを呆気に取られる。あ、あれ…?アンくんってもっと、こう…穏やかな感じかと思ってたんだけど…私を呼ぶのだって苗字にさん付けだったのに、それもなくなってるし……


「その時間になったらまた来るから、だから待ってろぃ!」

「え!あっ、ちょっ!……ありがとうございましたー……」


わたしの話を最後まで聞かず、さっさと帰ったアンくんのイメージ像がぼろぼろと崩れていった。育ちのいい坊ちゃんだと思ってたけどそんなことはなく、なんか普通の男の子って感じ…これがギャップと言うヤツなの?いや、違うような気もするけど…。今は20時。上がるまであと2時間もある。アンくんはああ言ってたけど、多分来ないよなぁ…






「まさか、ほんとに来るとは…」


コンビニを出たところでばったりとアンくんに会い、目をまん丸にすると待ってろって言ったろ!と怒られてしまった。謝るとそのまま私の手を取りだだっ広い駐車場を歩く。引っ張られながら、あの、えっと、なんて言ってる私は傍から見れば滑稽だと思う。かわいい見た目とは裏腹にアンくんの手はがっちりしてて少しドキリとする。


「あの、アンくん」

「…アンくん?」

「あっ!ご、ごめん、私つい癖で…!」


理由を話すと赤毛のアンって…と呆れたようにため息をついて一拍置き、ブン太、と私を見て告げた。それが名前なの?なんて言うと、そうだから名字も名前言えよ、フェアじゃねぇだろぃ!と返されたので素直に告げると嬉しそうに私の名前を二、三回口にして、ニッコリと笑った。なにがフェアじゃないのかよくわからなかったけど、この顔はすごくかっこいい。


「名前の家ってどっち?」

「えっと、こっち。……あの、ブン太くん、なんで私送ってもらってるの?」

「…前から、気になってたんだよ」

「え?」


呆気に取られる私をおいて、ブン太くんはそのままポツリポツリと色々と話してくれた。
初めて見た時から気になってたこと、どの曜日にシフトが入ってるかとか調べているだろうってときに入店してたこと、今日話しかけるのに緊張したこと…ほかにもたくさん。ちょっとストーカー臭いけど、こんなこと言われてはドキドキしてしまう。彼の顔が綺麗なぶん、そりゃもう余計に。


「小銭ばっかのも名前と向き合ってたいからだし、必ずおつりが出るようにしてたのもそれで」

「えっ!?わざとだったのやっぱり!?」

「当たり前だろ、なんでわざわざやらなきゃなんねーんだって。レジん時にいちいちお願いしますだとかいうのだって同じ、なんか会話してるみたいでいいなって」

「ええっ!?それも!?」

「…悪いかよ」

「…悪くない、けど」

「けど?」

「そういうこと言われると、その、ちょっと期待するというか…なんというか…」


もしかして私のこと、好きなんじゃ…なんて思ってしまう。理性をフル稼働させてそれはないって言い聞かせているけれど、心臓の速さは誤魔化せきれない。街頭に照らされてブン太くんの髪がキラリと光った。


「…それはこっちのセリフだっての」

「あ、あの、もっとブン太くんのこと知りたいなーとか…そういうのって、アリ?」

「お前のことも教えてくれるんなら、アリだろ」

「…ほんとに期待しちゃうよ?」

「俺だって期待するぜ?」

「期待に沿えるといいんだけど」


眉を八の字にして言えば、ブン太くんが私の頬をひと撫でして赤い、とつぶやいた。…そんなの、ブン太くんだって赤いじゃんか。
家までのそう遠くない距離。ふたりのことを話しながら、ゆっくりと歩いていった。繋いだ手からドキドキが伝わっちゃうんじゃないかな、なんて馬鹿なこと考えて、常連さんから一気に親密度の上がった彼とのこれからが、少し…いやかなり、楽しみになった。



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フリリクありがとうございます!書いている際「これほのぼのか…?」と頭を抱えましたが、ほのぼのーとしたお話になっている思いたいです。今回はアンケート諸々、ありがとうございました!

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