「ねっ!どれが似合うかな?」
「…お前なら、どれも似合うんじゃないか?」
「やだぁもう!弦一郎さんったらあ!アホ言ってないでさっさと着てみなよ。ほら、ほらほら」
多分彼女が彼であったのなら私はこんなところに連れてきたりはしなかった。キャッキャとはしゃぐ私と対照的な弦一郎さんはどこか気まずそうにするばかりだし、お互い変な気を使うのも…と考えていたから。だけどこのビッグなチャンスに乗らない訳が無いじゃないか!
「弦一郎さんはさ、こういうフリフリっとした女の子っぽいのも似合うけれどシックな感じもボーイッシュなのも似合うからいいなあ!」
「おい、俺はまだ何も着てないぞ」
「想像で着せ変えてる」
「やめんか!」
無理を言って連れ込んだ女物の服屋。可愛いのを見つけては体に当てて試着をすすめるけれど弦一郎さんはまったく頷いてくれない。ちぇっ!わかってはいたけどね。ただ綺麗な人が服を見ていると、本当に絵となるというか…弦一郎さん美しい…私この人の恋人でいいのかしら…
「記念に写真撮っとこ」
「おい!」
「んでもって待受にしとこ」
「おい!!」
私を止めようする弦一郎さんだが、どうやらスマホの操作が上手くできないらしい。私から奪い取ったはいいけれど四苦八苦し、私の誕生日を打ち込んだが弾かれたのを見て顔をしかめている。わははは!ロック解除の番号は弦一郎さん、あなたの誕生日だから簡単に解除できちゃうぞ。そうそう、052……
「…返す」
「え?」
「もう十分だ」
「…ごめん、私怒らせるようなことしちゃったかな?いじりすぎちゃった?」
「そうじゃない!気にするな!」
「お、おう!」
解除されたスマホの画面には戸惑いながら服を持つ弦一郎さんの顔が映し出されている。その本人の顔は耳も首も赤いので、なんだ、照れてるだけか。背丈が近くなった分、表情が良く見えるのがいい。どんな顔をしているのかわかるだけで随分と変わるものだ。赤い頬は薄く焼けた肌に映えて美しい。
「弦一郎さん」
「なんだ」
「好きよ」
なんでなんだろうね。こんなにも姿が変わってしまったのに、私ずっとドキドキしてるんだよ。より赤くなった弦一郎さんの輪郭を指でなぞる。女の子だ。まつ毛の長くてさくらんぼみたいな唇をして、美しいの似合う女の子だ。それなのに、私…
「なに言ってるんだ、こんなところで」
「うん、ごめんね」
「こういうのはだな、その…」
彼女を見ていると、彼が脳裏にちらつく。同一人物なのだから当たり前なのに、ひどく胸が苦しい。ごめんね。ごめんね。大変な思いをしているのに放っぽってこんな考えをして。なんだか浮気をしているような、そんな気持ちだ。
前 | 戻る | 次