黄金比率とかそういうの



「…あの、弦一郎さん、休んだ方が」

「そんなことできるか!」

「…更衣室」

「そんなことできるか!」

「…ハァ…」


3限目は体育だ。ちなみに隣のクラスである私は合同で弦一郎さんたちと一緒に授業を受けることになっている。体育着を持ち、廊下を出たところまではいいが、更衣室の前で二人揃って足を止めた。
女の子になっているとはいえ、彼女は元男子。弦一郎さんでなければ「イエーイ!女の体見放題だぜ!!」くらいかもしれないけれど、そうはいかないのが彼女だ。ちなみに上のやりとりをもう何度も繰り返し、出入り口からは着替え終わった女子生徒がチラホラと出ている。あと5分。そろそろ危ないかもしれない。


「弦一郎さん、このままじゃ授業始まっちゃうよ」

「しかし」

「たしかに弦一郎さんは男の子だけど、今は女の子だし仕方ないよ」

「…俺は、女子の体を、その、むやみに見るものだとはないと、だな…」

「それは、そうだけど…」


もう、どうしようもない気がする。あと3分。かなり厳しい。ため息をつき、思わずジャージに着替えた女子を目で追うと、するるーっとトイレに吸い込まれるように入っていった。髪の毛の最後の微調整らしい。わざわざ体育ごときにそんな気を使わなくとも…ん?


「弦一郎さん!トイレ、トイレだよ!」





ダッシュでトイレに駆け込み着替えた私達は今ならなんとか間に合う、と言ったところだ。夏は終わって秋に入り始めたこの頃、肌寒さのため半袖の上から長袖を着る。


「準備できた?」


個室で着替えている弦一郎さんに声をかけると、ガチャリと鍵の開く音がして、扉が開いた。半袖ハーパンの弦一郎さんはとんでもなく美しくて、腕利きの職人が作った石膏像みたいだ。……ちょっと盛った。でも芸術作品のようにバランスの整った彼女は思わずため息が漏れるほどで……ん?


「ちょ、げ、弦一郎さん」

「なんだ。体育に遅れてしまうぞ」

「いや、あの、あなた…ブラは?」

「プラハ?」

「そういうボケを求めてるんじゃなくって!ブラ!ブラジャーなんでしてないの!?」


ちっ…乳首、すけてるんだけど!?確かに今まで男だった弦一郎さんには無縁だっただろうけれど、彼女のたわわで柔らかそうな胸にブラジャーなしは、ちょっと…やばいんじゃないだろうか…?今は同性だというのに、思わず喉がゴクリと鳴った。


「そっ…んなもの俺がなぜつけなくてはならない!?」

「そりゃあなた今女の子だからね!?…あーもういいや!私の上着貸すから、今日は体育見学してて!」

「なぜだ!」

「いい、絶対だからね!じゃないと」

「…じゃないと?」

「私が弦一郎さんを見た男全員殺さなくちゃならなくなるから…」

私の言葉に観念したのか、弦一郎さんは渋々上着を受け取り、トイレを出た。私よりも大きな弦一郎さんでは貸した上着がピチピチだけど、それがイイ。これからはだぼだぼジャージではなくパツパツジャージだと痛感した。



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -