「名字、すまない、頼みがあるのだが」
「なに?」
「その、な…名前で呼んでくれんか」
「弦子ちゃん?」
「いや…そっちではなくてだな。あと、その"ちゃん"はやめてくれ」
「え?えっと、弦一郎……さん?」
一応女の子にだし…と"さん"をつける。私の言葉にかあっと頬を染める弦一郎さんに胸が高鳴った。身長が女の子になって縮み、顔までの距離が近づいたせいかどんな顔をしているのかはっきりとわかる。
もう一度名前を呼ぶとやはり照れた顔をし、でも嬉しそうに返事をしてくれた。かっ…かわいい…!うわー!真田く…いや、弦一郎さんかわいい!!調子に乗って名前を連呼しまくるとその顔は更に赤く染まり、制止する声が私に投げかけられる。
「弦一郎さん!」
「も、もう、やめてくれ…っ!」
「…真田さんに戻せばいい?」
「そうではなくって!」
「弦一郎さん!!」
「名字!」
からかいすぎたのか、弦一郎さんは私の名前を言ったっきりそっぽを向いてしまった。ごめんね、と謝ると彼女は機嫌が悪そうに私の方を向き、小さく名前、とつぶやいた。
「…俺もお前の名前で呼んでいいか」
「え?うん、いいよ」
「名前」
「なに?弦一郎さん」
「……」
特に反応しない私に残念そうにする弦一郎さん。ごめんね、何回もシミュレートしたからここまでなら大丈夫。にっこり笑うとちょっと悔しそうにクラスへ行く、と返してきた。
「うん、それじゃ私休み時間になる度に遊びに行くよ」
「来なくていい。休み時間とは本来次の授業の準備をするための時間であってだな」
「うん、まあそうなんだけどさ。弦一郎さんトイレとか着替えとか大丈夫なの?」
「……よろしく頼む」
「はい、任されました。」
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