柔らかな手



「さなだ、くん…?」

「そうだ」

「ほ、ほんとは女の子だったの…?」

「……」


何も言わず黙ってしまった真田くんに、さっきから心臓のばくばくが止まらない。真田くんってことは認めるくせに女の子ということは認めないって訳わかんねぇ…。
実は男として育てられた女の子でその期間が終わったから女の子として生活し始めた、とか?私がそう尋ねると、いつもみたいにそんなわけないだろう!なんて返してくるもんだから、ついつい彼女と真田くんを重ねてしまう。
確かに似てるっていえば似てる。凛とした眼差しとか、姿勢の良さとか、声はそのまま高くしたって感じだし。


「真田くん…いや、真田さん?あのさちょっとお話しない?」

「ああ、頼む。俺自身なにがなんだかよくわかっていないのだ」

「はい?」

「朝起きたら、このようになっていた。両親は驚かず…むしろそれで当たり前のように接した。そして俺を"弦子"と呼んだ」

「つ、つるこぉ?」


弦一郎の弦は"つる"とも読めるらしく。私が感心しているとと彼女はそのまま話を続けた。
朝起きると女の子になっていて、制服は女子のものが家にあり、家族からは弦一郎ではなく弦子と呼ばれた。まるで元から女だったようだ。そう呟く彼女は悲痛で胸が苦しくなる。


「…精市や蓮二に電話をしたのだ」

「そ…それで…?」

「そいつらもまた、俺のことを弦子と、呼んだ。名字だけだ、俺が真田弦一郎だったということを覚えているのは、俺以外に名字しか、おらんのだ」

「そんなことって…」


思わず絶句したけれど、きっと真田さん(もうなんと呼んだらいいのかわからない)の方が辛い思いをしているのは明白だ。
私だけしか元の彼を覚えていない。
こんな状況普段なら「え〜!きっと愛のチカラだね〜!うふふ〜!」くらいの冗談言えるだろうけれど、そんなことも言ってられない。心配そうな彼女の手を握り大丈夫だよ、なんてありきたりな言葉をかける。握った手は柔らかくて、本当に女の子なんだなって改めて実感する。


「私がいるよ」





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