夢現微睡み沈む | ナノ


罪と罰



事の発端は、あの同窓会での出来事だろう。




「名前おそーい!」

「ごめん、仕事長引いちゃって!」

指定された店に遅れながらも入ると、既に何人かは出来上がっているようだ。軽く会釈をして、適当なテーブルに腰掛ける。久しぶりに会った級友は、なんだか知らない人たちのようだ。頼んだ生ビールを口にしながら、ぼんやりと眺めた。


「名字か?」

「あ、真田くん?」


ふと上から声がかかる。この声は今でも覚えている。低いバスの声。見上げればあの頃とあまり変わらない、真田くんが立っていた。私が名前を呼ぶとそのまま正面に座り、久しぶりだな、と微笑んだ。


「本当、久しぶりだね。…真田くんあんまり変わってなくてちょっと安心しちゃった」

「…それは褒められているのか?」

「うん、褒めてる。真田くん元から大人っぽい顔してたからさ。ほら、みんな大人っぽくなってて…ちょっと寂しい」

「名字は、変わったな」

「…大人っぽくなった?」

「大人なのだから大人っぽいのは当たり前だろう。名字は…綺麗になった」

「え」


驚いて目を見開くと、少し照れたような顔をした真田くんがいる。びっくりした。だって真田くんがそんなこと言えるような男性になっていたなんて。気恥しくて、そのままの勢いでビールを飲み干す。


「真田くんは、かっこいいままだね」

「…そうか?」

「うん。わたし、真田くんのことばかり見てたから、わかるよ」


中学生当時、私は真田くんに憧れていた。自身にも周りにも厳しく、礼儀正しい。サッパリとした性格で、誰に対しても、物応じない。それがかっこよくて、憧れで、好きだった。
卒業してから恋人ができたこともあったし、真田くんに胸の内を伝えたことはなかったけれど、それでも心に真田くんとの思い出は初恋として刻まれている。


「私、真田くんのこと好きだったもん」

アルコールの魔力か、サラサラとこんな言葉が口に出た。後ろの方から名前と私を呼ぶ声がする。振り返ると当時仲の良かった女の子達が手を振って笑っている。丁度良かった。こんなこと口走るなんて。恥ずかしさから真田くんの方は見ず、じゃあね、なんて告げて女の子立ちの方に駆け寄る。そのまま私は昔話に花を咲かせ、同窓会はお開きとなった。真田くんとそれから話はしなく、次の日にはもうそのことも忘れていた。

そしてその日から一週間後、私は、監禁生活を送ることになる。



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